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新たな展開 …1
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新学期が始まって、1週間経ったある日。
インディール国より、アルフレッドと入れ替わりの留学生がやって来た。
留学生はルシエルの隣のクラス、ミシェルと同じクラスに入った。
その日の昼休み、学園内のカフェで昼食中、ミシェルから留学生の話を聞いたルシエルは、その名前に驚きを隠せなかった。
「イーサン……バハーク、でんか?」
「ええ、そう。……なあに?どうしたの?」
「あ、いや、聞いたことあるような気がした、だけ」
えへへ。とルシエルは誤魔化した。
イーサン・バハーク。
それは、ゲームの攻略対象者として登場する人物の名前だった。
隣国からの留学生という設定だったから、同一人物で間違いないだろう。
しかし、ゲーム内で留学生がこちらに来るのは、主人公マリーが学園に来るのと同じ時期……つまり、来年度であるはずなのだ。
それがなぜ今なのだろうか、とルシエルは考えた。
思い当たる節と言えば、こちらの留学事情だろう。
おそらく、本来ならアルフレッドではなく別の誰かが来年度留学し、そこでイーサンもこちらに来る筈だった。
しかし、何かの理由でアルフレッドが急きょ行くこととなったためこのような事態になっているのだろうとルシエルは考えた。
そして、そうなった原因は少なからず自分にある事もルシエルは感じていた。
「そう言えば、すごいこと聞いちゃったの」
「……んっ?あ、うん。なに?」
「イーサン・バハーク殿下の噂なんだけどね……」
ミシェルの聞いた噂と言うのは、イーサンはこの国で側室を探すつもりらしい、と言う話だった。
ミシェルのクラスにはインディール国の貴族と交流のある商会の娘がおり、その子から聞いた話らしい。
イーサンには本国に婚約者がおり、その子とあまり仲が良くないらしい。
本国で側室を見つけても良いが、そうなると貴族達の争いが目に見えているので、それならば他国で他の女を探すのではないか……と言う事だった。
「まぁ、本人がそう言っていた訳じゃなくて、一部で噂されているだけ、って話なんだけどね。……でも、多くの王子の中から第二王子のイーサン・バハーク殿下がおいでになられたのは、何か理由があると考えるのが普通よね?この国が王太子のアルフレッド様を向かわせたのだって……、あっ、ご、ごめんなさい」
アルフレッドの名前を聞いた瞬間、ルシエルはピクリと反応してしまい、それをミシェルに目ざとく気付かれてしまう。
「いや……」
気にしてないよ、と言うふうに首を振りながらも、ミシェルもアルフレッドの留学をそんな風に受け止めていたのだとルシエルは気付いた。
それにしても、噂通りなら『側室を見つける』とはどう言う事だろう?とルシエルは考える。
ゲームでイーサンを選択した場合、ハッピーエンドではちゃんと恋人になれたはずだ。
現在の婚約者との婚約を解消して、新たに婚約者にするという事か?
考えてみても、ルシエルにその答えが分かる事はない。
(何にせよ、ゲームと現実は違う。現実は色々と複雑なんだ……)
ルシエルは、大きな溜息をついた。
「……あ、あの、ルゥ?」
「んー?」
「話は変わるけど、アルフレッド様に手紙を出したい場合、レオン様にことづけるって話だったでしょう?」
「え?うん」
ルシエルは、アルフレッドから何かあれば手紙を寄越してくれと言われている。
ただし、個人でやり取りするには届くまでに時間がかかるので、レオンに託して公式なやり取りで使用する直通便に紛れ込ませてもらう手筈になっていた。
「それ、遠慮せずにどんどん出すのよ?」
「えっ?……でも……」
「いいの!レオン様には私からもよーくお願いしておくし、何より、遠距離恋愛に大事なのは、細やかなやり取りよっ?」
「遠距離、恋愛?」
ミシェルの言い方に、ルシエルは頬を染めた。
「そうでしょ?遠距離恋愛。うふふっ。……まぁ、相思相愛のルゥとアルフレッド様を見れば、離れていても、あまり心配はないのだろうけど」
「そ、相思相あ、ぃ……いや、その」
「でも、会えない間の不安を解消するには、細かにやり取りをするのが一番よっ!ね?レオン様の話だと、少なくとも週に一度は定期便を出すらしいじゃない?……本当は、毎日でもやり取りしたいでしょうけど……とりあえず、手紙、書くのよ?遠慮せずにねっ?」
「いや、でも、レオン様にご迷惑をお掛けするのは……」
「でも、は無し!迷惑だなんて私が言わせないわよ!それに、レオン様だって、アルフレッド様とルゥのことを応援しているわ」
そう言って、ミシェルはがしりとルシエルの手を取った。
「何かあれば相談してね?寂しければ愚痴も聞くわ?だから……元気出して?アルフレッド様が帰ってくるまで、一緒に乗り越えましょう?」
優しく笑うミシェルを見て、ルシエルもつられて微笑んだ。
ミシェルに"元気がない"ように見られていたんだと知ったルシエルは、少し恥ずかしくなった。
「ありがと……」
「いいの。どんどん弱音受け付けるから。むしろ、待ってるわ。……実は私、ルゥと恋愛話をするのが夢だったのよ。ふふっ。だから、遠慮なく話してちょうだい?」
「恋愛話って……」
ルシエルが先程よりさらに頬を染めた。
「恋愛、してるでしょう?私達!」
そう言ってウフフと笑うミシェルに、ルシエルは再びつられて微笑んだ。
そんな可愛い姉、ミシェルの幸せを、ルシエルは改めて願わずにはいられなかった。
それから一ヶ月経ったとある日の放課後。
ルシエルは、新しい花を植えようと中庭の花壇に向かっていた。
花壇の手前に来た時、既視感のある出で立ちの男が花壇の近くのベンチに腰掛けて本を読んでいるのを見かけて、ルシエルは思わず足を止めた。
やや褐色を帯びた肌に、フワリと風に揺れる銀髪。
高級そうな光沢のある生地の、詰襟の異国の服。
整った顔は、いかにも女子にモテそうだ。
久方振りにチクリと頭の痛みを感じたルシエルが動けずにジッとしていると、前方の人物がゆっくりと顔を上げて、ルシエルの方を見た。
その瞳は綺麗な黄金色をしている事に、ルシエルは気付いた。
(間違い、ない。攻略対象の、イーサン殿下だ)
思わず動けなくなったルシエルに、イーサンがニコリと微笑んだ。
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