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新たな展開 …2
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「何か、用かな?」
動かないルシエルに向かって、イーサンが声をかけた。
その事によって、ルシエルはハッと気を取り直す。
「あっ、いえ。申し訳ありません。そこの花壇で、ちょっと、作業を……えと、その、しようと思いまして……」
まさか話しかけられるとは思わなかったルシエルは、しどろもどろになりながらも、なんとか返事をした。
その様子に、イーサンがクスクスと笑いを漏らす。
「あぁ、すまない。もし邪魔なら移動するが?」
「いえ!そのような事では。むしろ、お休みのところ、お邪魔して申し訳ありません」
「あぁ、いや。私のことは気にしないでくれ」
「え、あ、はい」
畏まりながらイーサンの前を通り過ぎる時、少し離れた場所にイーサンの護衛らしき男性がいるのにルシエルは気付いた。
というか、気付かされた。
その護衛が、無言で殺気を飛ばして来たからである。
イーサンの近くに寄る者をこうして威圧することで、彼を守っているのだろう。
(護衛もまたイケメンだなぁ……)
そんな事を思いながら、ルシエルはベンチの前の花壇で園芸部の作業を始めた。
ゲームにはこんな護衛は出てこなかったが、まぁイーサンの立場上、居るのが当然だろうとルシエルは考える。
これまでに5人中3人の攻略対象者と会話をしたが、皆、ゲームの設定とはどこかしら違っていた。
ゲームはゲーム、現実は現実なのだと、ルシエルは改めて思い巡らせる。
ゲームの中でイーサンは、ミステリアスなイケメンキャラだった。
顔は嫌いではないが、本心の読めない感じが、ルシエル、と言うか、前世のマモルは好きになれなかった。
現実のイーサンは婚約者が(噂だが)いるらしいので、ゲームのミステリアスさも納得出来る。
主人公マリーには、婚約者がいた事も隠していたくらいなのだ。
そんなイーサンと主人公マリーの出会いは、中庭でこうしてイーサンが本を読んでいる時に、花好きの主人公マリーが通りかかったのがきっかけだ。
そこでマリーが真剣に花を見つめて考え事をしているところで話しかけられる。
そこで、お互いまだ学園に馴染めていないという仲間意識から仲良くなるのだ。
(確か……イーサンは悩んでいたんだよね?友達が出来なくて。……まぁ、そりゃそうだよなぁ。何せ他国の王子だし。何よりミステリアスな雰囲気が何とも話しかけ辛そうだし。ただ、主人公マリーは貴族としての知識がない分、イーサンに対する恐れも少なかったんだ。で、すぐに仲良くなれた。本来なら不敬となるんだろうけど、孤独なイーサンは、逆にそれが嬉しかったんだろうなぁと、今なら想像も容易いよ)
ルシエルはザクザクと土に穴を掘って、そこへ持ってきた球根を植える。
(でも、あの見た目なら、すぐに女子が寄ってきそうなものだけど。……うーん。帰ったらミシェルに聞いてみようっと……)
球根を全て植え終わると、ルシエルはポンポンと土を均して「元気に育ってねー」と声をかけた。
そして、立ち上がって「うーん」と伸びをする。
植えた球根にあげる水を汲みに行く途中、本を読むイーサンの前を通る。
(何を読んでるのかな?本が好きなのかな?……この季節、こんな所で本を読むのは寒いんじゃ?)
そんな事を考えながら水を汲んで、再び花壇で作業を始めた時だった。
「何を、植えたんだ?」
「……えっ?」
声をかけられた方を見て、ルシエルは驚いた。
そこには本を持ったイーサンが立っていたからだ。
「あっ、えっと……チューリップです」
「へぇ。いつ頃、花が咲くんだ?」
「春です。……2ヶ月くらい先でしょうか」
「ふーん。それは楽しみだ。あぁ、作業の邪魔をしてすまない。続けてくれ」
「あ、はい」
イーサンはそう言ったものの、その場に佇んだままだ。
ここでルシエルの作業を見るつもりなのだろう。
(や、やり辛い……)
なんとか植えた場所に水を撒き終わり、道具を片付けようとルシエルが花壇から出た時、再びイーサンから話しかけられた。
「君はこの時間に作業をする事が多いのか?」
「えっ?あ、はい。……たまに、ですけど」
「そうか。……次はいつだ?」
「……えっ?」
思いも寄らない事を突然聞かれたルシエルは、聞かれたことの意味を理解するまでに時間を要した。
「あぁ、いや。土いじりを見るのも楽しいな、と思って」
「……は、はぁ」
またもやよく分からない事を言われて、ルシエルは返事に困った。
イーサンもアルフレッドの様に、園芸好きな王子様なのだろうか?と考えた。
何にせよ、立場上はルシエルはイーサンには逆らえない。
イーサンは難しい事を言っているわけではないので、無視する訳にもいかない。
「明後日……またこの時間に来ます。と言っても、水やりと、隣の花壇の手入れ程度ですが……」
「そうか。……分かった。じゃあ、明後日、また」
そう言って微笑んだイーサンは、その長い足であっという間にその場を去って行った。
「なんだ?今の……」
ルシエルはしばらくイーサンの去って行った方を見ていたが、考えても何がなんだか分からず、最終的に考える事をやめた。
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