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千客万来 …2
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それは、エドワードと会った次の日だった。
昼休み、友人のジローとカフェに向かっていたルシエルは、慌ててやって来たミシェルに呼び止められた。
「ルゥ!ルシエル!急で悪いんだけれど、今日、昼食を一緒にどう?いえ、どうと言うより、一緒に来て欲しいの」
「え?でも……」
ミシェルの突然の誘いに、ルシエルが困ってジローを見ると、何かを察したジローは微笑みを返した。
「いいよ。行っておいでよ。僕は他の人と行くから」
「まぁ、ジロー様、申し訳ありませんわ。……ほら、ルシエル、行くわよ!」
「えっ?あっ、ジロー!ごめんねっ!ミィ⁈そんなに急いでどうしたの?どこ行くの?」
ルシエルをぐいぐい引っ張って行くミシェルに、ルシエルは必死に後を着いて行く。
「レストランよ。って言うか、あなた、何かしたの?」
「何かって?なんの話?」
「お呼びがかかったのよ。王女殿下から」
「おうじょ、でんか?」
ルシエルは、ミシェルが何を言っているのかさっぱり分からなかった。
そんなルシエルの様子を見て、ミシェルは小さくため息を吐く。
レストランへの道すがら、ミシェルが説明を始めた。
昼休みに入ってすぐ、ミシェルの元に手紙が届けられた。
差出人は、この国の第二王女のヴィヴィアン王女殿下からで"昼食を一緒にどうか"と言う誘いの手紙だった。
さらにその手紙には、ルシエルにも会いたいと言う一文が添えられており、こうしてミシェルは慌てて行動しているのである。
ちなみに、ヴィヴィアンはこの学園の一年生である。
ミシェルは、サロン(貴族の交流の場)で何度か挨拶を交わした事があるが、ルシエルはまだ会ったことのない人物だ。
二人がレストランに着くと、一番奥のテーブルに手紙の差出人であるヴィヴィアンが座っていた。
金髪のストレートの髪は腰まで伸びており、キラキラと陽に輝いているのが印象的だ。
後ろには取り巻きらしき女生徒が一人立っている。
ミシェルは慌てて近寄り、挨拶をした。
「ヴィヴィアン王女殿下、遅くなりまして申し訳ございません。昼食へのお誘い、大変ありがとうございます」
「ミシェル様、こちらこそ突然お誘いして申し訳ありませんわ。で……そちらがルシエル様?」
ミシェルの後ろに控えていたルシエルに、ヴィヴィアンは好奇心いっぱいの目を向けた。
アルフレッドと同じ青い瞳はぱっちりとしていて、長い睫毛に縁取られている。
その容姿は、まるで前世で見た人形のようだとルシエルは思った。
そんな王女ヴィヴィアンに、ルシエルはドギマギしながらも挨拶をする。
「ルシエル・ルーズベルトでございます。本日はお招き頂き大変光栄です」
「ヴィヴィアンです。こちらこそ、お会いできて嬉しいわ!あぁ!想像していたより素敵な方!可愛らしくて、お優しそうで!お兄様が気に入るのも頷けますわ!」
ヴィヴィアンが立ち上がってルシエルの方に前のめりになったところで、後ろに控えていた女生徒が咳払いをした。
「あら……これは失礼致しましたわ。つい、興奮してしまいまして」
ウフフと笑いながらヴィヴィアンが腰を落ち着け、ミシェルとルシエルにも座るように促した。
「ではお食事を持たせましょう。昼休みは時間が限られていますから……本当は、もっとゆっくりとしたいのだけれど」
ミシェルがそう言って後ろの女生徒に目配せをすると、その女は頷いてその場から去って行った。
「さてと……この度は本当に突然でごめんなさい。けれど昨夜、エドワードお兄様からあなたと会ったという話を伺ったら、居ても立っても居られなくなりまして……どうしてもお会いしたくなったのですわ」
ヴィヴィアンがルシエルに微笑みかけた。
「あなたとは一度お会いしたいと思っておりましたのよ。ですが、なかなかきっかけがなく……。そうしたら、エドワードお兄様が嬉しそうにあなたと会ったと話すものですから。それで私も自分で会いに行くべきだと気付きまして。ミシェル様にお願いさせていただいたのですわ」
「ありがとう」とヴィヴィアンがミシェルに笑いかけた。
「いえ、あの、ルシエルと会いたかったと言うのは……」
ミシェルが恐る恐る尋ねる。
するとヴィヴィアンはウフフと頬を染めた。
「もちろん、アルフレッドお兄様との事ですわ。実は風の噂でお二人がお付き合いしている事を知りまして」
ミシェルの言葉に、ミシェルもルシエルも絶句した。
ミシェルは、何故そんな事に⁈と思い、ルシエルは、王女様まで⁈と思った。
「ここだけの話、と言うか、周知のことかしら?アルフレッドお兄様って、女遊びが酷かったでしょう?まぁ、うちは自由恋愛ですし、家族も何も言わずに見守っていたのですが……ですが、あまりにも酷かったでしょう?よほど女好きなのかと妹ながらに悩みましたのよ?ですが、ルシエル様とお付き合いを始めてからお兄様の態度が変わりました。そこで気付きましたの。お兄様はずっと運命の相手を探していたのですわ!そしてルシエル様と出会ったのです!その証拠に、ルシエル様との付き合い方は、他の方とは違いますもの!」
ミシェルは「まぁ」と呟き、ルシエルは顔を赤くした。
ヴィヴィアンの話はまだ続く。
「私、以前、王宮の中庭でお二人のことを遠くからですが拝見した事がありますの。あの時は、ルシエル様のお顔は分からなかったのですが……あの時のお兄様の顔!あれは忘れられませんわ!!お兄様のあの様なお顔、他の女では見たことありませんもの!」
ヴィヴィアンがその時のことを思い出すように頬を染めて両手で顔を包んだ。
「一言で言えば、萌えましたわ!!」
「「も、え?」」
ミシェルとルシエルの声が重なった。
「えぇ!それでエドワードお兄様が、お相手のルシエル様は、それはそれは可愛らしい方だったと話したのを聞いて、私……」
そこで、テーブルにランチプレートが運ばれて来て、ヴィヴィアンは口をつぐんだ。
先程の女生徒は、ランチが揃ったのを見届けてから、どこかへと去って行った。
出来た取り巻きである。
「あら、ごめんなさい。つい話に熱くなってしまいましたわ。小声で話さなくては……。ウフフ。とりあえず、先にいただきましょうか」
ヴィヴィアンのペースについていけなかった二人は、彼女がカトラリーを手にして食べ始めたところでようやく我に帰り、お互い目配せしてから昼食を食べ始めた。
食べながら、ルシエルは頭を抱えたくなるのを必死に耐えた。
アルフレッドとはいつか別れるつもりでいた為、そんな大事に構えていなかった。
だが、自分の知らないところで大変な事態になっている様だとここに来て気付かされた。
周りのペースに合わせる様に、せっせとフォークを口に運ぶが、緊張のせいで味がほとんど分からなかった。
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