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千客万来 …3
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「私、あなたの事をお兄様とお呼びしてもよろしくて?」
食事が終わったヴィヴィアンの第一声はそれだった。
「は?……いえ、えっと……」
先程から向けられるヴィヴィアンの熱い?視線に、更に熱を乗せられて、ルシエルは困惑した。
「あの、それはどう言うことでございましょうか?」
返事に困ったルシエルの代わりに、ミシェルがそう聞いた。
「あら?お分かりにならない?ルシエル様はアルフレッドお兄様とお付き合いされているのでしょう?と言うことは、私にとって、お兄様的存在も同然ですわ」
ですわよね?と、ヴィヴィアンは首を可愛らしく傾げた。
ヴィヴィアンのまさかの答えに、ルシエルは困惑する。
(他人を家族のように呼ぶなんて。だけど、……僕とアルフレッド様は、家族になれる訳、ない、んだから……)
ヴィヴィアンがなにを考えているのか分からないが、ルシエルは嬉しさと悲しさで胸が苦しくなった。
「お気持ち、大変嬉しく思います。……ですが、王女殿下、その……お付き合いはさせて頂いておりますが、いつまでそのような関係が続くか、分かりませんし……その」
「えっ?もしやルシエル様はお兄様を見限ろうと……やはり、遠距離恋愛はお辛いですか?」
「ええっ?ルゥ!そうなの⁈どうしてっ?」
ヴィヴィアンとミシェルが同時に驚く。
「いえっ、違います!そうでは、ありませんが……ですが、私は、男、ですので……アルフレッド様は、いつか、他の方を、選ばれるのではないかと……」
「まぁ!そんな!あり得ません!アルフレッドお兄様はそんな事しませんわ!」
「王女殿下……」
ヴィヴィアンが間髪入れずに否定してくれた事に、ルシエルは嬉しくなった。
「ルゥ、なんでそんな事を言うの?そんな事思ってたの?アルフレッド様にそんな素振りはないでしょう?」
人前では"ルシエル"と呼ぶミシェルが、先程から"ルゥ"と呼ぶ。
それほどまでに、ミシェルは動揺していた。
誰よりも身近でルシエルがアルフレッドの事で悩んで来たのを見ていたので、こんな風にルシエルがアルフレッドとの別れを意識している事にショックを受けたのである。
「だって……」
そんなミシェルの機微をなんとなく感じたルシエルであったが、本心など言えるわけがなかった。
いつかアルフレッドは他の女を選ぶかも知れない。
そう言う相手がもうすぐ現れるのだ、なんて。
だからこそ、今から身を引く心積もりをしているのだと。
「あぁ、ルシエル様。どうかアルフレッドお兄様を見捨てないでくださいませ。……ごめんなさい。私がお兄様と呼びたいなどと変な事を言ったばかりに……何か思い詰めさせたのでしょう?違うのです。純粋に私はアルフレッドお兄様とルシエル様のことを……応援したいのです。見守りたいのです」
昨日のエドワードに引き続き、ヴィヴィアンまでもが応援したいと言う。
なんて自分は幸せなのだろうかとルシエルは思った。
「王女殿下のせいではございません。私自身の問題なのです……。私に、自信が無いだけなのです……」
「ルシエル様……」
「ルゥ……」
ルシエルは、アルフレッドが主人公マリーと出会えば、アルフレッドは必ず女であるマリーを選ぶと思っている。
だからこそ「自信が無い」という発言に繋がったのだが、それを知る由も無いヴィヴィアンは、それを良い意味に取らなかった。
あれだけアルフレッドに愛されているのに、この人は何を言うのだろうかと考えたのである。
「ルシエル様が、そう仰られるなら……私からはもう何も言えませんわ」
ヴィヴィアンが冷めた目でそう言った後、先程の女生徒が戻ってきた。
「ヴィヴィアン様、そろそろお時間です」
「まぁ、もうそんな時間?……ミシェル様、また後日、お誘いしてもよろしいかしら?」
「光栄でございますわ」
「それでは、ルシエル様、ミシェル様、本日はこれで失礼いたしますわ」
ヴィヴィアンが立ち上がったので、ルシエルとミシェルも立ち上がって御礼を述べた。
ヴィヴィアンが去った後、教室へ戻りながら、ミシェルがルシエルに説教をしたのは言うまでもない。
もし自分に自信が無いのだとしても、それをアルフレッドの妹であるヴィヴィアンに言うのはどうかと。
自分のことしか見えていなかったルシエルはそれを聞いて後悔するのだが、頭の中では、アルフレッドが他の女と……マリーと結ばれる画像がチラついていて、口だけで反省の言葉を言った。
数日後……
ミシェルは個人的にヴィヴィアンからランチに誘われた。
そこでミシェルは、ヴィヴィアンからビックリするような提案を受ける。
それは「ルシエルに自信をつけさせる」と言うものであった。
「あなた、王妃教育を受けてらしたのよね?ルシエル様にも、そのような知識を与えてほしいの。今後、アルフレッドお兄様の隣に並んでも恥ずかしくない知識を」
ヴィヴィアンのその発言にミシェルは驚いた。
今後ずっと、二人が隣に並んでいてほしいと思っていた。
しかしそれは、政治的な立場として、だ。
なぜならこの国では同性婚は認められていないため、そういう未来しか望めないからである。
子を産めないから、側室もあり得ない。
それがなぜ"王妃教育"なのか。
「私はアルフレッドお兄様が好き。あなたはルシエル様が好き。……そんな二人のために、私たちにしか出来ない応援もあると思うの」
そうニッコリ笑うヴィヴィアンの提案を、ミシェルはドキドキしながら聞いた。
もし、ルシエルが王妃になれるとしたら……
考えもしなかった夢を、ヴィヴィアンはミシェルに見せてくれた。
それがただの夢だとしても、ルシエルにとって王妃としての知識は無駄ではないだろうとミシェルは考える。
少なからず、自信に繋がるはずだ、と。
「ええ!王女殿下!私、しっかりやらせていただきますわ!」
こうして、ルシエルの知らないところで、二人を応援する輪が繋がっていくのであった--
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