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千客万来 …7
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その日の夜、ルシエルがミシェルから大目玉を食らったのは言うまでもない。
それを受けて、ルシエルは改めてイーサンとの距離を考えると約束した。
「はぁ。そこら辺の女なら、うちの爵位を使って脅せるのに……」
ミシェルがポソリと呟く。
「え?何か言った?」
「いえ……何でもないわ」
その見た目と将来性で、ルシエルはモテる。
ルシエルの気付かないところで、ルシエルに近付こうとする女のほとんどを、ミシェルが邪魔をして潰している事をルシエルは知らない。
強者数人がルシエルに挑んでいるが、それはルシエル自身が避けている事で、進展せずに済んでいた。
しかし、イーサンがルシエルに近付いていると目の当たりにしても、ミシェルも本人も、それを拒絶する事は出来ない。
今のところ「ただの仲良し」以上の関係で無いし、何かを強要された訳でもないからだ。
もちろん、無理矢理何かされそうになった場合は、相手の身分が上だろうと話は別だが。
「とにかく……今日私が見た限り、イーサン殿下はルシエルに少なからず好意を持ってるわ。だから、不敬だろうがなんだろうが、いざという時は逃げなさい?良いわね?」
「うん。……でもあれって、好意、なのかな?」
恋愛経験値の低い、かつ、友達経験値すら低いルシエルは、こういう事が少し鈍い。
なにより前世が原因で、今の自分がモテる部類であるという自覚を持てずにいた。
「好意がある事は間違いないでしょう?でなければ、あんな距離で接する事はないわ」
「そう、か……うん。分かった」
「はぁ。全くルシエルったら。見てるこっちが不安になるわ。……何かあれば、必ず私に相談するのよ?」
「はい。ワカリマシタ」
とりあえず、ミシェルの意見に逆らう気のないルシエルは、イーサンの行動を思い出しつつ、今後どうやって回避しようか考えるのであった。
次の日から、なるべくルシエルが一人にならないように、ミシェルやレオンが動いた。
休み時間になると必ずルシエルのところに誰かがいたし、園芸部の活動ではジローが一緒に行動した。
例えイーサンが話しかけて来ても、二人きりにならないというミシェルの言いつけを、ルシエルはなんとか守れていた。
ルシエルが驚いたのが、アルフレッドの弟のエドワードが、ルシエルによく話しかけるようになった事である。
エドワードは、単純にルシエルがどんな人物か気になっていた事もあるし、先日レオンから「ルシエル様を気にかけて頂けませんか?」と言われた事もある。
エドワードとイーサンは同じ王子という立場から、周りより多少仲が良いようで、ルシエルがエドワードと一緒の時は、イーサンがよく話しかけてきた。
そこでイーサンがルシエルにちょっかいをかけようとするのだが、エドワードがうまくあしらってくれていた。
そんなある日の放課後、ルシエルの元にミシェルが同じ読書クラブの親友ハンナを連れてやって来た。
「ルシエル。今日から、お手紙の書き方のお勉強をしようと思うのよ」
そんな話をしながら、図書館へと向かう。
「ご公務で、書類の処理は必ずあると思うの。そこで、ハンナはそういうのがとても得意でね、先生をお願いしたのよ」
「えっ?」
「よろしくお願いいたしますわ、ルシエル様」
ハンナはニコニコしながらそう言った。
「私が習っていた先生をお呼びする事も考えたのだけど、あの先生、少々噂好きでね。それは色々とマズイでしょう?そこでハンナにお願いしたの。大丈夫!ハンナはとても口が硬いのよ。それに、文章を書くことがとても上手だし、本をたくさん読んでるからとても博識なのよ」
「いや、でも……っ」
ルシエルは縋るようにミシェルを見た。
手紙の書き方の勉強をするのは、まぁ良いとして、手紙の書き方を習うにしても、ルシエルの現状等々を説明しなければならないはずだ。
(あれ?さっき、ミシェル『公務』って言わなかった?)
ふと、先ほどのミシェルの言葉を思い出して、ルシエルは口をパクパクさせた。
その様子に気付いたミシェルは、コロコロと笑う。
「ごめんなさい?先生をお願いするにあたって、ハンナにはルシエルの事を話したわ。でも大丈夫だから。ハンナは偏見もないし、絶対誰にも言わないわ」
ミシェルの言葉に、ハンナはドンっと胸を叩いた。
「ええ!ルシエル様、私、誰にも喋りませんわ!不安でしたら、契約書を交わしましょうか?それとも、私が先生では頼りないですか?」
ミシェルと同じ勢いを感じるハンナの態度に、ルシエルは思わず「いえ、大丈夫です。……ヨロシクお願いシマス」と答えてしまっていた。
それから週に一度、手紙や書類の書き方をハンナからルシエルは教わった。
ハンナはとても気さくで話しやすく、ルシエルはいつの間にかその勉強の時間を楽しんでいた。
と言うのは、ミシェル以外の女の子と仲良く話すのは、前世で孤立する前以来の事だったからである。
今世でルシエルに寄ってくる女は、大概ルシエルの恋人や婚約者の立場を狙っていた。
その為、色々と仕掛けられたり期待した目で見られたりして、同性愛者のルシエルは、それが苦痛で女を避けていたのである。
しかし、ハンナはそれらの"女"とは違った。
女の部分は見せない上に、男友達と話しているような気楽さもあった。
何より、ハンナはとても聞き上手で、ルシエルは一緒にいる心地良さを感じている程だった。
ある日、ルシエルとハンナが図書館で二人で向かい合って座っている時だった。
ハンナが突然「私達が噂になっているのはご存知?」ということを言い出した。
どうやら、今まで特定の女と仲良くしてこなかったルシエルが、一人の女性と仲良くしていることが噂になっているという話だった。
「それで……」とハンナは続ける。
「もし、アルフレッド殿下のお耳に入ってしまった場合、こう言ってくださいませ。『ハンナは同性愛者で、恋愛対象は女だ』と。だから、私とはそう言う関係にはならないのだ、と」
ハンナの告白に、ルシエルは驚いた。
と同時に、アルフレッドの不安を消すための嘘かと思ったのだが、どうやら違うようだ。
ハンナは「ミシェルの事が好きだった事もあるのよ」と可愛らしく笑った。
その後、ハンナはルシエルにとってとても重要な人物となるのだが……それはまた、別のお話。
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