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攻防 …2
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走って図書館に戻ったルシエルは、図書館の前でミシェルと会った。
ミシェルはハンナから事情を聞いて、ルシエルを探しに行こうとしていたところである。
ちなみにミシェルは、ルシエルは達とは別のテーブルでレオンと勉強という名の逢瀬を楽しんでいた。
ミシェルはルシエルを見つけるなり、手を引いて急いで家へと連れ帰った。
「何も、されなかったでしょうね?」
「え?う……うん……」
「あれは、絶対に手が早いんだから!既成事実でも作られたら大変だわ!」
「あれって……ふふ、ミシェルったら……」
イーサンを『あれ』呼ばわりし、既成事実などと冗談を言うミシェルに、ルシエルは笑った。
先ほどまで動転していた気持ちが嘘のように引いていく。
こんな素敵な姉を誰が悪役令嬢などにしたのだろうと、ルシエルは頭の片隅で呪った。
「冗談で言ってるんじゃないわよ?」
「ふふっ。……うん。ありがと」
それにしても、と、自室で一人になったルシエルは先程のイーサンを思い出す。
(あれって……告白、だよね?)
イーサンは、ゲームの攻略対象者だ。
それがどうして自分を気に入るのだろうとルシエルは考えた。
チクリ、と頭が疼いて、ゲームのイーサンが頭を過る。
(『妃になれ』って……イーサン攻略でハッピーエンドのルートに入った時に、イーサンから言われるセリフだ!)
思い出すと、別の意味で頭痛がするような気がした。
アルフレッドといい、イーサンといい、自分はどこでどんな風にフラグを立ててしまったのかと。
アルフレッドに関しては、ルシエル自身もそうなりたいと願っていたし、こうなってしまった事に不満はない。
しかし、イーサンに関しては、どうしてこうなるのかが、検討もつかなかった。
正解を言えば、ルシエルと言う人物にイーサンがただ惹かれただけなのだが、ゲームのことが頭にあるルシエルは、素直にそう考える事は出来なかった。
その後、イーサンはルシエルに対して好意を隠さずに接してくるようになった。
そのため、イーサンと立場的に同等なエドワードが、ルシエルの側でルシエルを守るようになった。
実はエドワードは、ルシエルやアルフレッドに対して、勝手ながら借りを感じている。
と言うのも、エドワードが現在付き合っている彼女とは、エドワードが留学せずに済んだ為に付き合えているようなものなのである。
つまり、代わりに留学したアルフレッドとルシエルを犠牲にして今の幸せを得ていると、エドワードは勝手に感じていた。
長い片思いの末にようやく実った恋なので、その想いもひとしおである。
そこで、自分に出来る範囲で、アルフレッドとルシエルを助けようと思っての行動であった。
そんなある日の放課後、一人園芸クラブの温室に向かう途中にレオンから呼び止められたルシエルは、レオンから一通の手紙を受け取った。
「こちら、預かったお手紙です」
「あ……っ!いつもありがとうございます!」
それは、アルフレッドからの手紙である。
それを嬉しそうに受け取るルシエルに、レオンもつられて微笑んだ。
「アルフレッド様、ルシエル様のお手紙がよほど嬉しかったのでしょう。まさかこんなに早くお返事が来るとは。……ふふっ」
おそらく、レオンのところにも何かしら手紙が届いていて、そこに何か書かれていたのだろうと察したルシエルは、恥ずかしさからその頬を染めた。
「また、早めにお手紙をお書きくださいませ。他国で一人過ごされているアルフレッド様の何よりの励みになりましょう」
「……はい」
ルシエルだって分かっている。
もしアルフレッドの立場なら、故郷からの便りが、何よりの楽しみとなるだろうと。
「今度はなるべく早めに、書こうと思います」
「ええ。お待ちしております」
そうして、二人で微笑み合って、その場を離れた。
……その何気ないやり取りを、少し離れた場所から見ていた人物がいた。
イーサンである。
レオンから何かを受け取り嬉しそうにし、会話の途中で頬を染めたルシエルを目撃したのである。
会話の内容までは分からなかったが、だからこそイーサンは勘違いした。
ルシエルの想い人は、レオンではないかと。
イーサンには向けた事のない蕩けるような笑みに、やけに苛立ちを感じた。
だからこそ、半ば駆けるようにしてルシエルの元へと近付いた。
「ルシエル!」
「あっ……。イーサン殿下」
ルシエルは挨拶の礼を取りながら、さっと手紙をポケットにねじ込んだ。
その様子も、イーサンを苛立たせる原因の一つとなった。
ルシエルが下げていた頭を上げたが、イーサンはルシエルを見下ろすように立っているだけである。
「あの、イーサン殿下?何か御用でしたでしょうか?」
最近のイーサンに対して逃げ腰になっていたルシエルは、早くこの場から立ち去りたくて、そう聞いた。
「ルシエルに婚約者がいないのは、想い人がいるからなのだろう?」
「……えっ?」
何故突然そんな事を言われたのか分からなかったルシエルは、首を傾げた。
「ルーズベルト家は、政略結婚を嫌っていると聞いた」
「あ……あ、そう言う事でございますか」
確かに、侯爵家のルシエルは、結婚相手に対して引く手数多である。
それなのに未だに婚約者がいないのは、単に両親が恋愛結婚を推奨しているからである。
「ルシエル程の家柄で、想い人がいるのに婚約に漕ぎ着けない理由を考えていた」
「…………」
イーサンに真剣な顔で見つめられて、ルシエルは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
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