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攻防 …3
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「ルシエルの想い人は、ルシエル家と同格、もしくは格上の女性が相手なのだろうと思っていたが。……どうやら違ったようだ」
イーサンがニヤリと笑う。
「ルシエルの想い人は、男なのだな」
「……っ」
イーサンの言葉に思わず動揺してしまったルシエルを見て、イーサンはクッと笑った。
「そうか。……そうなのか。ククッ。だから、誰とも付き合わず、婚約者もいないのだ」
「それは……っ、その……」
くつくつと肩を揺らすイーサンから、ルシエルは目線をそらすことしかできなかった。
「お前の事を調べたが、付き合っている相手はいないのだろう?つまり、どこぞの男に一方的に懸想しているのだ」
「いえ……っ、そのような……」
ルシエルは必死に否定しようとしたが、上手い言葉が見つからず、結果俯いてしまった。
その様子を、イーサンは楽しそうに眺める。
ちなみに、アルフレッドとの関係を知っているのは限られた人物(アルフレッド及びルシエル大好き人間)のみなので、周りには広まっていない。
「ならば話は早いではないか」
イーサンがルシエルに一歩近付いた。
「この国では、男同士の結婚は無理であろう?しかし、我が国はそうではない。結婚をし、世間的に夫婦として認められる。差別されることも決してない。……どうだ?もしお前が男しか愛せぬのであれば、私は理想的な相手ではないか?」
「っ。い、いえ。私は男が好きと言うわけでは……」
ルシエルが否定するも、イーサンはそれを聞くような態度を取らなかった。
先程のルシエルがレオンに向けた微笑みを、自分にも向けて欲しい。
そんな事をイーサンは考えていた。
「私の手を取れ。決して後悔はさせない」
そうしてイーサンがルシエルに手を伸ばした。
その時である。
「ル、ルシエル!こんなところに!」
二人の空間に割って入る様に、大きな声が飛び込んで来た。
ルシエルが声をした方を見ると、親友のジローが走って来るところだった。
「あっ!イーサン殿下。……お話中のところ、大変申し訳ございません」
目上の人物が話しているところに割って入るのは、マナー違反である。
その為、イーサンはジローに対して厳しい視線を向けたが、ジローはそれを気にしないような素振りでイーサンに挨拶の礼をとった。
「ルシエル!今、ルシエルの従事がルシエルの事を、探してたよ」
「従事?ジャックかな?もう迎えに来たのかな?」
「うん!なんか、慌てた様子だったから、大事な用事なのかも!」
そう言ってジローはルシエルの手を引いた。
「と言うわけで、イーサン殿下。御無礼申し訳ございませんが、失礼させていただきます!」
「えっ?ちょっ!ジロー?……っ!イーサン殿下、申し訳ありませんが、これで失礼させていただきますっ」
そうして、ルシエルとジローは走るようにしているその場を去った。
残されたイーサンは、睨むような眼差しを二人の背に向けた。
「殿下……あの者達、いかがいたしますか?」
少し離れた場所にいたイーサンの護衛が、姿を現した。
会話は聞いていないが、ジローとルシエルがイーサンに無礼を働いたことは、遠目からでも分かった。
「……気にするな」
「しかし……」
イーサンの護衛からしてみれば、自国の王子がぞんざいな扱いをされているのは許せなかった。
「いいから。放っておけ!」
「……ハッ。畏まりました」
苛立ちと共に、イーサンの中に嬉しさも込み上げる。
ルシエルの恋愛対象が男であると分かったからだ。
つまり、イーサンに落ちる可能性が多少なりとも上がると言う事だ。
当初、ルシエルの恋愛対象は女だと思って遠慮していたが、それも必要ないだろうと考えを改めた。
イーサンは、ルシエルが消えた方を見て、ニヤリと笑うのだった。
「……っ!とと!ジロー?どうしたの?」
従事が呼んでいるとの事で、二人は馬車留めがある近くの従事の待機場所へと向かっていたのだが、ジローはその建物が見えると急に足を止めた。
「ごめん。……ウソだから」
「えっ?何が?」
「従事が呼んでるとか、ウソだよ。……なんか、さっきルシエルとイーサン殿下を見かけた時、ルシエル、すごく怯えてた様子だったから。咄嗟に嘘ついて……。ごめん!迷惑な事したかな?」
先程、イーサンから迫られた時救ってくれた友人の言葉が咄嗟についたウソだと知ったルシエルは、泣きたいほど嬉しい気持ちになった。
「迷惑なわけないじゃないか!……実際、さっきは本当に困ってたんだ……!だから、助かったよ。ありがと」
嬉しそうに笑うルシエルにつられて、ジローも下げていた眉を上げて微笑んだ。
「それにしても……ミシェルさんが言ってた通り、ルシエルはイーサン殿下に狙われてるんだね。うん。僕なんか、頼りないかもしれないけど、困った事になったらいつでも頼ってよね?」
「うん。……本当にありがとう」
ジローの優しさにルシエルがジーンとしていると、突然ジローが「あっ!」と声を上げた。
「あの時は必死だったから何も考えなかったけど、僕、イーサン殿下に失礼な事したよねっ?どうしよう!不敬罪に問われたら!!」
そう言って慌てるジローの肩をなだめる様にルシエルは撫でた。
「大丈夫だよ!呼び出しが嘘じゃなければ良いんだから!そこは任せて」
ルシエルの家は全員がルシエルの味方である。
事情を話せば、イーサンの前から退くに値する「緊急の呼び出し」の理由を作ってくれるだろう。
そんな話をしながら、二人は笑顔で従事の待機所へと向かった。
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