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アルフレッド、新規開拓
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「まさか……こんな事が……」
ここはインディール国。
アルフレッドに与えられた王城の一室、ランプが灯る中、彼は本を食い入る様に見つめていた。
アルフレッドが手にしている本は……いわゆる性教育の本である。
性教育の本と言えど、中身はセックス指南書と変わりない。
アルフレッドが見ているのは同性愛者向けの章であった。
そこに書かれている内容に、アルフレッドは衝撃を受けているのである。
そもそも、アルフレッドはなぜこの様な本を手に入れて読んでいるのか。
その理由は、半日前に遡る……
場所はアルフレッドの通う、インディール国立大学。
放課後、アルフレッドが一人で廊下を歩いていた時だった。
突然、栗毛の男子生徒がアルフレッドを呼び止めて「お伝えしたい事がございます」と、アルフレッドを足止めしたのが始まりだ。
「ずっとお慕いしておりました。あのっ……こちらにいる間だけでも、僕をお側に置いていただけませんか?」
そう言われたアルフレッドは、最初何を言われているのか分からなかった。
が、ふと気付く。
この国では、男同士のカップルは珍しくない。
つまり"告白されているのだ"と。
男にそう言う目で見られているな、と思う事はあっても、告白されたのは初めてだった。
ちなみに、女からは数え切れないくらい告白され、誘惑もされている。
「いや、すまないが……」
アルフレッドがそう言って断ると、男子生徒は目を潤ませた。
その様子に、アルフレッドは思わず一歩後ずさる。
「なぜ、ですか?僕は、魅力が足りないですか?」
「いや……そういう事ではなく……」
白い肌に赤い唇、パチリとした瞳は男としては可愛い部類に入るだろう。
しかし、アルフレッドは男に魅力を感じない。
ルシエルを除いて。
そのため、適当にあしらってこの場を去ろうと思ったのだが、予期していた以上に、その男子生徒はアルフレッドとの距離を詰めて来たのだ。
しかも、涙目で。
まさか男に迫られるとは思っていなかったアルフレッドは、突然のアタックに対応が後手後手になる。
「では……っ、身体だけの関係でも……。いえっ、一度でも良いんです。僕を、抱いてくれませんか?」
「……は?」
アルフレッドがまた一歩後ずさると、その分、男子生徒も距離を詰めて来た。
男子生徒は目に涙をため、手を胸の前で祈るように組んでアルフレッドに迫る。
『抱いて』の意味を理解したアルフレッドは、動揺したものの、それを隠す様に小さく咳払いをして、自分より背の低い男子生徒を見下ろした。
「私は男に興味はないよ」
「あの……ではなぜ、令嬢からの誘いをことごとく断られているのですか?」
男子生徒の質問を無視しようかとも思ったが、無視する事で都合良く解釈されては困ると思い、アルフレッドは口を開いた。
「……私は勉強をするためにここに来ている訳で、遊びに来ている訳ではない」
「ですが……っ、まだ婚約者もいらっしゃらないとお聞きしました。それで、その……噂があるのです。アルフレッド殿下は、その、同性愛者なのでは、と」
驚きの噂がある事に、アルフレッドは今度こそ動揺を隠せなかった。
まさか自分がそんな風に見られていたとは、と。
しかし落ち込みそうになったところで、目の前の男の顔を見てハッと気付く。
この国で同性愛は普通の事なのだ。
同性愛者と見られることは、決して偏見ではない。
そこに思い至り、アルフレッドは気を持ち直す。
「それを聞いたら、居ても立っても居られなくて。僕にもチャンスがあるのかな、って。僕、アルフレッド殿下の事が本当に好きなのです!……お願いです。お付き合いが無理なら……一度でいいので、抱いてくださいませんか?」
しつこいその男子生徒に、アルフレッドは小さく息を吐いた。
「面倒だ……」と呟いて、その場を去ろうとしたのだが、その小さな呟きを男子生徒は聞き逃さなかった。
「お、お手間は取らせません!ちゃんと自分でキレイにして、じ、自分で解しておくので……アルフレッド殿下は挿れてくださるだけでっ。……あ、あのっ、勃たなければ、口で致しますので……それでっ、そのっ」
真っ赤な顔をして恥ずかしそうに見上げる男子生徒を、アルフレッドは無視して立ち去ろうとした。
が、どうにも先程言われたことが気になって、途中でその足を止めてしまった。
「……君は……男、だろう?」
「はい」
今更何を?と男子生徒が首を傾げる。
「挿れる、とは?」
「…………え?」
男子生徒は驚いたように、目を見開いた。
そうして、赤い頬をさらに赤く染めた。
「も、申し訳ございません!男は……経験がないのでしたかっ?あの、その……男は、後ろの……お尻の穴を使うのです」
「……うし、……ゴホン。それは、普通の事なのか?」
「え?ええ。男同士であれば。性教育の本にも、書いてますし……あっ!アナルセックスは、ハマればとても気持ち良いそうです!……あのっ、試すだけでも良いんです!少しだけでも、アルフレッド殿下と繋がれたら、僕、本当にっ……」
アルフレッドには、男子生徒の声は途中から聞こえていなかった。
今初めて得た知識に、頭を殴られたような気がして、その場に立ち尽くす。
「あの?アルフレッド殿下?」
「……、あ。いや。私は君の気持ちに応えることは出来ない。失礼する」
実は、大学一可愛いと言われていた目の前の男子生徒だったが、アルフレッドの目にその顔は少しの印象も残さなかった。
今アルフレッドの頭を占めているのは、ルシエルの顔である。
その後、慌てて王城の自室に戻ったアルフレッドは、お忍びの格好に着替え、城下町に降りる。
そして、たまに顔を出していた本屋に直行した。
目指すのは、いつも見ている武道や歴史の棚ではない。
先ほど聞いた「性教育」関連の書籍である。
目当てのものを見つけたアルフレッドは、迷わずそれを購入し、王城にトンボ帰りした。
夕食と湯浴みを済ませ、自室に一人きりになったところで、冒頭のシーンに戻る。
読み進める毎に募るのは、ルシエルへの想いである。
ルシエルにこれを実行したらどうなるか、その前に受け入れてくれるのか……
アルフレッドがその後、ルシエルと繋がることを想像しながら致したのは、言うまでもない。
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