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王家の兄妹 …1
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ルシエルとイーサンの中庭でのやり取りを、遠くからではあるが、目撃していた人物がいた。
エドワードである。
ルシエルが浮気なんかするはずが無いと思いながらも、イーサンの過剰なスキンシップに、モヤモヤしたものを感じずにはいられなかった。
(何でルシエルはもっと拒まないんだ!あいつがどんだけ危険な男か、ルシエルは分かって無いんだろうか?)
そんな風に憤りを覚えつつも、頭では分かっている。
立場上、ルシエルが強く拒めない事を。
「あー、クソ。兄上に、伝えるべきか……」
エドワードは、アルフレッドにイーサンの事を伝えるか悩んでいた。
もし黙っていた場合、アルフレッドが帰ってきてから噂を耳にした場合、とても嫌な気分になるだろう。
それを考えれば、先に伝えておくべきな気もする。
しかし遠く離れている今、このことを伝えたとしても、どうにも動けないアルフレッドは辛い思いをするだけではないか、とも考えた。
「ルシエルは……大丈夫だろうか?」
ルシエルの事は信じている。
しかし、遠く離れたアルフレッドより、近くのイーサンに靡かないとは限らない。
さらにイーサンのいるインディール国は、同性愛者に優しい国だ。
同性愛者のルシエルがそこに魅力を感じて、インディール国へ行ってしまう可能性もゼロではないのだ。
(あー、クソ。考えても答えが見つからん!)
一晩悶々と悩んだエドワードは、事情を知るヴィヴィアンにも相談しようと思いついた。
相談というより、他人に話す事で気持ちを楽にしたかった、が正解だが。
「ヴィヴィアン」
次の休日。
アルフレッドが手入れをしていた離宮の庭で、王女は花を愛でながら午後のお茶を楽しんでいた。
その後ろ姿に、エドワードは声をかけた。
「あら。エドワードお兄様。こんなところに足を運ばれるのは珍しいですわね」
そう言ってヴィヴィアンは側に控える侍女に目配せをして、エドワードのティーカップを準備させる。
「うん。兄上の事を考えていたら、ヴィヴィアンがこちらでお茶をしていると聞いてね。ちょうど良いと思ってこちらに来てみたんだよ」
エドワードが、準備された席へと座る。
「ちょうど良い?」
「あぁ。……それにしても、ここの薔薇は見事に咲いているな。兄上は本当に花が好きなのだな。……ククッ。兄上の見た目からは、あんな繊細な花を育てているとは想像しづらいが……」
エドワードは笑いながら紅茶を一口飲んだ。
「まぁ!エドワードお兄様ったら。アルフレッドお兄様が聞いたら、拗ねてしまいますわよ。ふふっ。……そう言えば、中庭の端……この離宮へと続く門の側に育ててある薔薇を見た事は御座いまして?」
「いや?」
「あの一画の薔薇は、ルシエル様が植えられたそうよ?ルシエル様らしい、可愛らしく優しい色の薔薇が咲いておりますの。お母様が、あの側に薔薇の門を作って、薔薇園として楽しみたいとおっしゃっていましたわ」
「……そうか。そのうち見に行ってみよう」
エドワードは何かに想いを馳せるように遠くを見てそう呟いた。
「それで?私に何かお話でも?」
「あ、あぁ」
エドワードは微妙な顔で紅茶を飲み干してから、侍女と護衛を少し下がらせて、先日見かけたルシエルとイーサンの出来事をヴィヴィアンに話した。
「…………」
「ヴィヴィアン?……ヴィー?どうした?」
一通り話終わると、ヴィヴィアンはテーブルを見つめて動かなくなった。
よく見れば、腕が微かに震えている。
その手は膝の上で硬く握り締められていた。
「ふ、ふ、不潔ですわっ」
「ふけ……あぁ、まぁ、そう、かな?」
どうやら、怒っている様子のヴィヴィアンに、エドワードは身じろぐ。
「エドワードお兄様は知っていて?……っ。先日、イーサン殿下が、寝室に男をっ、、男を連れ込んだのをっ!」
「連れ込んだ?……いや。っていうか、どこでそんな話を……」
顔を真っ赤にしたヴィヴィアンの様子から『連れ込む』の意味を正しく理解したエドワードは、先程の『不潔』という言葉の意味も理解した。
「王宮内の噂は、侍女を通してわたくしに全て入って来ますからね!……って、そこはどうでも良いのです。……イーサン殿下がルシエル様を特別視しているのは、ミシェル様から聞いて知っておりましたわ。ですが、エドワードお兄様のお話からすると、イーサン殿下はルシエル様を、そういう目で見ている、という事ではないですか?お、恐ろしい!!ですのに、他の男と……っ!不潔ですわっ!」
ヴィヴィアンが自分を抱きしめるように腕を回した。
「恐ろしいって……」
「恐ろしい以外に何があるのです?ただでさえあの方の嫌な噂を耳にした後で、そのような話を聞かされたらっ。ルシエル様も同じように狙われてるいのではなくて?好きでもない男の方にそのように迫られるなんて……っ。恐怖でしかありませんわ」
ヴィヴィアンの言い分を聞いて、なるほど女からの目線だとそうなるのか、とエドワードは納得した。
「あ、あぁ……そうか。うん。……まぁ、それでだな、この事を兄上に伝えるべきか、伝えるとしても、どう伝えるべきか悩んでいたんだよ。ヴィヴィアンは、どう思う?」
エドワードの言葉を聞いたヴィヴィアンは、小さく「それは、難しい問題ですわね」と呟いた。
しばらく二人の間には沈黙が訪れた。
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