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お茶会
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6月。
終業式の日。
ルシエルは講堂での式典の最中、昨日アルフレッドから届いた手紙を思い出してニヤつくのを我慢していた。
最近の手紙は、ルシエルを気遣うものが多かったのだが、昨日の手紙は特に愛の言葉がずらりと並んでおり、終始ルシエルを赤面させたのだった。
そして、インディール国での用事が済んだらすぐにそちらへ帰る、もしかしたらこれが最後の手紙になるかもしれない、と書いてあった。
もうすぐアルフレッドに会えると言う喜びがジワジワと湧いてくる。
ニヤけるのを抑えていたら、壇上の学園長がイーサンを呼んだ。
その名前に、ルシエルは自然と身体を小さくした。
壇上にイーサンが上がって微笑むと、あちこちから黄色い声が上がる。
ルシエルはここまでどうにか、イーサンからの誘いを断ってきた。
その苦労を思い返して、小さく溜息を吐く。
イーサンが本国へと戻るまで、後2週間である。
学園が終わっても、パーティ等でも挨拶周りや、公務などがあるからだ。
もし、アルフレッドと想いが通じていなければ、ルシエルはイーサンの誘いに乗っていたかもしれない。
今のミシェルがゲームの主人公マリーを虐めるとは思えないし、何より今後アルフレッドとマリーが仲を深めるのを見たくないからだ。
しかし、今はまだアルフレッドから愛されている実感がある。
離れていても大事にされているのを感じる今、イーサンの元へ行く気は全くなかった。
そんなことを考えていたら、ふと壇上から視線を感じた。
顔を上げると、別れの挨拶をしていたイーサンと目が合った。
ルシエルはその視線から逃れるように、目線を下げた。
そして、昨日の出来事を再び思い出した。
昨日、受け取った手紙は、アルフレッドの物だけではなかった。
イーサンからも手紙が届いたのだ。
そこには、ルシエルに対する想いが綴られていたが、それを受け入れてもらえず悲しい、という内容であった。
そして、もし今後、気が変わるようなことがあればいつでも連絡をして欲しい、という事も書かれていた。
それにはルシエルもクラリと来た。
が、自分はルーズベルト家を継ぐ者だから、と気を持ち直した。
手紙の最後には"最後にお別れを言いたいから"と、お茶会の誘いが書かれていた。
本心は行きたくなかったが、断る理由はない。
「はぁ……」
ルシエルは小さく溜息を吐いて、式典が早く終わることを祈った。
それから10日後……
ルシエルはイーサン主催のお茶会に参加していた。
場所は王城の客間の一室で、ルシエル以外にも学園の主要な貴族が呼ばれていた。
と言っても、男だらけで「女性陣はまた別の可愛いお茶会を開いた」と言う話だった。
そちらにはミシェルも呼ばれて参加している。
ミシェルと言えば、今日ルシエルが家を出る前に散々「病欠にしては?」と言っていたのだが、今までイーサンからの想いを無視してきた分、最後ぐらい……とルシエルは出席を選んだのである。
会は至って普通のお茶会で、イーサンが一人一人に別れの挨拶をして回り、他の者たちは談笑して、終始穏やかなものであった。
そして、お茶会がお開きになった時である。
「ルシエル」
イーサンが、席から立ち上がったルシエルを呼び止めた。
「あぁ。イーサン様、本日はありがとうございました」
「いや……実はだな、ルシエルに渡したい物があったのだが、部屋に忘れて来てしまって……。しかし今、私の部屋まで取りに行ける者が居なくてな。あそこは限られた者しか入れないからな。なので、私が取りに行こうと思うのだが、ここで少し待っていてもらえないだろうか」
部屋に一緒に行こうと言われるのかと、一瞬警戒したルシエルだったが、ここで待てと言われてその警戒を解いた。
「あ、はい。……分かりました」
「すまないな。すぐ戻ってくる。……あ、お茶の新しいものを出そう」
そう言ったイーサンは、従事の一人に合図をして去って行った。
ルシエルがその背を見送って椅子に腰掛けると、すぐに従事が紅茶を運んで来た。
「こちらは、インディール国原産の、薔薇を使ったジャムでございます。紅茶に入れてお飲みください」
「薔薇……」
先程の会で紅茶に飽きてしまっていたルシエルだったが、薔薇のジャムには興味をそそられた。
紅茶が注がれたティーカップに、スプーンですくった薔薇のジャムを落として混ぜると、フワリと甘い香りが立ち昇った。
ティーカップを持ち上げると、薔薇の香りが鼻をくすぐる。
「良い香り……」
一口飲んでみると、思ったよりも甘さが口に広がった。
しかし、後口に薔薇の香りが広がって、その甘さを気分の良いものへと変えてくれる。
(不思議な味。蜂蜜が混ざってるのかな?……薔薇以外の花も使ってるのかも)
そんな事を考えながら、ティーカップの紅茶を飲み干した頃、イーサンが戻ってきた。
「ルシエル、待たせてすまない」
「いえ」
イーサンを迎えるために、ルシエルが立ち上がる。
(あ、れ?)
立ち上がった際に顔が火照るような感覚がしたが、先程、温かい紅茶を飲んだせいだろうと気にしない事にした。
「渡したいものは、これなんだけど……」
イーサンが、小さな袋を差し出した。
「……っ」
受け取る時に、イーサンの指が手のひらに触れて、ルシエルは思わずピクリと反応してしまった。
すこし手が触れただけなのに、なぜかその部分をかなり意識してしまったのだ。
「え、えっと、これは、何ですか?」
「お香だよ。私の国では、お香を楽しむ文化があってね。何種類か入れておいたから、気分によって使い分けると良い。小さな香炉も入っていて……使い方は分かるかな?」
「はい。……おそらく」
「そうか。……私が愛用している香も入っている。それで、たまには私を思い出してくれると嬉しい」
イーサンはそう言って、少し悲しそうに笑った。
その顔がなんだかとても愛らしく見えて、ルシエルは笑って「はい」と答えた。
その顔を見たイーサンが、思わずと言った感じでルシエルを抱きしめる。
「あ……っ」
一瞬抵抗しようと思ったルシエルだったが、これで最後だと思えば、何故か許せる気がしたので、大人しくイーサンの腕に収まった。
……普段なら許さないはずのその触れ合いを許してしまったのは、薔薇ジャムに盛られた媚薬によるものだと、今のルシエルが気付くはずもなかった。
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