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救出に至るまで …3
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護衛は小さく舌打ちして、その足を止めた。
「何か、御用か?」
「いえ。抱えられているのは……人、ですよね?誰か分からぬ者を連れて、城の中を歩かれるのは困ります」
その声は、ルシエルもよく知ったレオンの声だった。
「……それは、申し訳ない。しかし、我が主がこの者を所望しておりましてね。……余計な詮索は無用です。では」
案に「邪魔をするな」的な事を言った護衛は、そのままスタスタと歩き始める。
ルシエルが思わず「あ」と声を漏らしたところ、護衛はルシエルを潰さんばかりの力を腕に加えたので、ルシエルは恐怖で黙らざるを得なかった。
「お待ちください!」
レオンは護衛を追いかける。
そうして追いかけながら、焦りと怒りで震えていた。
ミシェルから媚薬の事を聞かされたレオンは、今日一日イーサンの事を見張っていた。
案の定、お茶会の後ルシエルはなぜか一人残り、そこで振舞われたお茶を飲んで体調を崩した。
ミシェルの密偵にイーサンとルシエルの後を追わせながら、レオンはルシエルが口にした茶器を引く従事の元へと向かった。
従事が抵抗するのを黙らせ、茶器を奪い、その匂いを嗅いで僅かに残った紅茶を舐める。
レオンはアルフレッドの側近として、毒などの知識は豊富に得ている。
その為、ルシエルに盛られた薬をすぐに察した。
「媚薬。……身体だけでなく……精神も蝕むモノか?」
従事は何も答えなかった。
ルシエルとイーサンが消えた方角を見ながら、レオンは大いに後悔した。
ルシエルが一人残った時点で、ここに踏み込むべきであったと。
それほどに強力な薬であったのだ。
つまり、レオンは自分に対して怒っていた。
アルフレッドがいない間、ルシエルを守るのは自分だと思っていた分、その怒りは強い。
そして、ルシエルを見つけた今、例え相手が他国の王子の護衛であれ、引く訳にはいかなかった。
思わず護衛に対して、それはアルフレッド様の大事な人だ、と言いそうになる。
しかし、すんでのところで思い留まった。
ルシエルが相手の手の内にいる今、それを明かせば、ルシエルが何かに利用されてしまう事も考えられるからだ。
ミシェルもそれを懸念して、回りくどい救出劇を演じているのである。
さらに、レオンとその護衛……インディール国の騎士は、身分的に騎士の方が上だった。
変に言いがかりを付ければ、剣を向けられる事も考えられる。
「お待ちください。……私は、先程のお茶会で消えた、ある人物を探しているのです。その者の迎えの従事が、主人が行方不明だと騒いでいましてね」
その言葉に護衛は一瞬反応したが、無視して歩き続ける。
「その方は、侯爵家のご子息なのですが、ご存知ないですか?お茶会はイーサン殿下が催されたものなのですが。……無視されるとは、まさかそちらに抱えていらっしゃるのは、その方ではないのですか?」
レオンのその言葉に、護衛は足を止めざるを得なかった。
「……私には何のことだか。この者は、イーサン殿下の寵愛を受けている者と聞いている。それだけだ」
「少しお顔を拝見させて頂くくらい良いでしょう?……隠してなんの得があるのです?このままでは、不審者を城内に手引きしたとして尋問させていただきますよ?」
一歩も引かないレオンの様子に、護衛は内心溜息を吐いた。
色々と考えを巡らせた結果、目の前にいる男を無視する事に決めた。
イーサンの部屋に入れば、何とも知れないこの男が入って来ることは叶わないと踏んだのだ。
「無粋だ」
護衛はそう一言だけ吐き捨てて歩き出す。
「っ!」
話の通じない猪のようなその護衛に、何か打つ手はないかとレオンは思考を巡らせた。
背中に冷や汗が流れるのを感じた時、護衛の向こうの廊下から、一人の男が歩いてくるのが見えた。
その人物に気付いたレオンはホッとした反面、その顔を見て凍りついた。
護衛の前に、その人物が立ち塞がる。
「そこの者、止まれ」
その声に、マントの中がモゾリと動くのを護衛は感じた。
目の前の男が、その身なりから王家の者であると判断した護衛は、大人しく足を止めた。
そして記憶を辿り、目の前にいる男がこの国の王太子である事に思い至った。
「これは……アルフレッド王太子殿下。どうして、こちらに?もうお帰りになられたのですか?」
「あぁ。不測の事態が起きてな。……ところでお前は、何を……誰を抱えている?」
アルフレッドの強い問いに、護衛は一瞬ひるんだ。
マントの中のルシエルが、小さく震えている事に気付いたが、今はそれどころではない。
「イーサン殿下に召された者です。無粋な事ですので、お見逃しいただければ幸いにございます」
「……見逃せ、と?」
「……っ」
無表情のアルフレッドの様子に、護衛は背筋が冷えるのを感じた。
先程から邪魔が入ってばかりであるこの状況と、まさかの王太子の登場に、今抱えている人物は手を出すにはヤバイ相手だったのではないかという考えが浮かんだ。
王族の縁者か、もしくはそのうちの誰かの特別か。
言い訳を考えている護衛の前に、スラリと抜き身の剣が差し出された。
「……!!」
「アルフレッド様!」
護衛の後ろで、レオンが焦った様に声をかけた。
「見逃す訳なかろう?……手の中の者をこちらに渡してもらおう」
「……何故、でしょうか?」
渡せ、と言われても、簡単には渡せない。
イーサンがどれほどルシエルに執着しているか、護衛は知っているからだ。
媚薬というズルをしてでも、手に入れたかった者なのだ。
「何故?……そんなもの、お前に説明する必要はない。渡せぬのなら、私の前で不審な行動を取ったとして、この場で斬り伏せる」
「っっ」
アルフレッドのその勢いと言葉に、護衛はもう観念するしかなかった。
そして、名残惜しそうにゆっくりと、ルシエルをその場に下ろした。
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