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ゲームの舞台 …4
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ルシエルがマリエを見た日から2週間。
「はぁぁ……」
園芸部の温室に、大きなため息が響く。
小さな苗に顔を寄せるようにしゃがんでいたジローが顔を上げた。
「ルシエル?……さっきから、どうしたの?」
ジローの視線の先には、薔薇を見つめるルシエルの姿があった。
いや、顔は薔薇の方を向いているが、その目は薔薇を写してはいない。
ルシエルはマリエが頬を染めて『アルフレッド様』と呼ぶ場面を未だに何度も反芻している。
来週、新入生のオリエンテーリングと地域交流を兼ねた学園祭が行われる。
ゲームでは、攻略者選択イベントにあたる。
そこでマリエはアルフレッドを選ぶのではないかとルシエルは考えていた。
忙しいアルフレッドが学園祭の時に学園にいないパターンもある、という事態を願う事しかルシエルには出来なかった。
「おーい。ルシエルくーん?」
ジローが、立ち上がってルシエルの方へと近付くが、それでもルシエルはボーッとしたままだ。
「ふーむ…………ねぇ、アルフレッド様と何かあった?」
ジローのその言葉に、ルシエルはハッとしたように顔を上げた。
「えっ?あっ、えっ?……あ!ジロー!えと、何?どうしたの?」
「ふふっ?図星かな?僕でよかったら話聞くよー?」
そう言って眉を下げて微笑むジローに、ルシエルは心が温かくなった。
が、すぐに先程ジローに言われた内容を思い出して赤面する。
「あっ!えーと、えっ?なんでっ?なんで、アルフレッド様?」
「う~~ん。なんとなく?」
ジローはそう言って困ったように笑った。
しかしルシエルはその笑みに同じように困った笑みを返しただけだった。
そんなルシエルを見て、ジローはさらに笑みを深くした。
「ふふっ。ごめん。……何て言うか、この前アルフレッド様がいらした時、よそよそしかった気がして。」
実はジローはなんとなく気が付いていた。
アルフレッドが園芸部を退部しても何度も足を運んで来るのはルシエルに会うためだろうと。
何せ、アルフレッドが顔を出すときは、必ずと言って良いほどルシエルが近くにいるからである。
もちろん、それだけなら偶然か、ただの仲良しを連想するだけなのだが……
ジローはある日、見てしまったのである。
温室から出てきた二人を。
先に出てきたアルフレッドの初めて見るニヤついた笑み。
その笑みは一瞬で消えたが、目撃したジローは何事かと驚いた。
その後すぐに出てきたルシエルを見て、ジローはさらに驚く。
潤んだ目に上気した頬、赤く濡れた唇。
男の自分でもドキドキする顔をして出てきたルシエルに、二人に何かあった、と思わざるを得なかったのだ。
その目も頬も唇も、外気にさらされたせいかすぐに元に戻ったので、二人のあの瞬間を見てしまったジローはタイミングが良かったというか悪かったというか……
普段の二人をよく知っているからこそ、それらの小さな異変に気付いたのだが、結果、二人がただならぬ関係であると思うに至ったのだ。
しかし、いくらルシエルが友人と言えど、その相手は王太子だ。
憶測でプライベートに踏み込むような事を口にする訳にはいかず、ジローは困り顔の友人に別の話題を振ることにした。
「あ、そうだ。ちょっと気になってるんだけど……ルシエルって、シンプソン嬢の事、避けてるよね?」
「えっ?いや、そう?その、あれは、何て言うか……」
ジローの言う通り、ルシエルはたまに中庭でマリエを見かけることがあったが、その度にその場から逃げるように去っていた。
「まぁ……分からなくもないけどね。僕なんて会うたびに、今日はアルフレッド様はいないんですか?とかランバート先生はどこですか?とか聞かれてさぁ。……何だろ。やっぱり苦手だよ。あはは」
言いながらジローはふと思った。
もしかしてルシエルはマリエに嫉妬しているのではないかと。
何せマリエは、普通は「殿下」と呼ぶべきアルフレッドの事を「アルフレッド様」と馴れ馴れしく呼ぶのだ。
アルフレッドがそれを許しているのか、それともマリエの無知なのかはジローには分からないが。
ちなみにジローは、アルフレッドから名前を呼ぶ事を許されている。
「あ……気にするなよ?僕が見る限り、アルフレッド様はシンプソン嬢の事はなんとも思ってないから」
ジローはニヤけるのを我慢しながらそう言った。
「へっ?えっ?いや……あー……」
ルシエルのその反応も、ジローには微笑ましい事だった。
アルフレッドとの関係はハッキリとは分からないが、恋に悩んでいる(らしい)友人をとても好ましく思った。
その時、カタリと温室のドアが開いた。
二人がふりむくと、そこにアルフレッドが立っていた。
「ちょっと、邪魔する」
「あ、アルフレッド様」
ジローがペコリとお辞儀をするのに合わせて、ルシエルも頭を下げた。
留学から帰って来たあの日以降、アルフレッドは公務が色々と忙しいようで、プライベートで二人はゆっくり会えていない。
たまにルシエルが王宮の中庭に行ったり、アルフレッドがこうして園芸部を覗きに来たりして顔を見る程度だ。
「あ、そう言えば、学園祭にアルフレッド様のラベンダーも展示されると伺いました」
「えっ?」
ジローの発言にルシエルが驚いた。
「あ、あぁ。先程、ランバート先生から頼まれたよ」
「やっぱりそうなんですね!アルフレッド様のラベンダー、見事ですもの」
楽しそうに話すジローとは裏腹に、ルシエルは気持ちが暗くなるのを感じた。
話の流れからすると、やはりアルフレッドは学園祭に参加するのだ。
(そして……)
ルシエルは一人でマイナス思考の堂々巡りに陥っていった。
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