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攻略者選択イベント
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学園祭の日になった。
この日は、校庭や各教室に貴族出資の出店が出たり、それぞれのクラブが発表会を開いたりと、色々なイベントが催される。
ルシエルは今年は園芸部としてジローと一緒に中庭でコスモスを発表する。
前世の記憶で、いろんな色のコスモスがあると知っていたルシエルがジローと一緒に様々な文献を頼りに多様な種を入手して、それらを咲かせることに成功したのである。
地域交流の意味合いもあるこの学園祭は、それぞれの出し物から、取引の話が出る事も少なくない。
なので、部員は学園祭への参加を余儀なくされる。
ちなみに展示物の見張りはプロの警備員がそこかしこに立っているので問題はないため、行動は自由である。
ルシエルは中庭の端のベンチに座って本を読んでいた。
と言っても、字は全く頭に入って来ない。
気にしないようにしても、どうしても気になるのだ。
マリエが誰を選ぶか。
この世界はゲームとは違うと思っていても、起こりうる未来に不安を抱かずにはいられなかった。
そこでルシエルが出した結論は"確認すること"だった。
兎にも角にも、マリエがアルフレッドを選ばなければ、自分の悩みは解決されるのだ。
ミシェルが追放される不安もなくなるし、アルフレッドがマリエに取られる事はなくなるのだ。
(いつかは別の女に取られるかもしれないが)
攻略者選択イベントでは、誰を選ぶかによって行く場所が変わる。
アルフレッドを選択した場合は、この中庭に来るのだ。
ただし、その時間や正確な場所は分からない。
ちなみに、先程からアルフレッドは何度か目撃した。
常に誰かを伴っていて、遠目にはその人達を案内しているようだった。
少し後ろにはレオンが控えている。
(忙しそう……こんな調子じゃ、マリエと会っても仲良くなるきっかけは出来ないんじゃ?)
もしマリエがアルフレッドを選択した場合、その後も何度か中庭でアルフレッドと出会い、選択肢で正しい回答を選べば徐々に仲良くなって行く。
何度か目に、マリーの生家が花屋と知ったアルフレッドがマリーの花への愛情を気に入り、王宮の薔薇園の世話をマリーに頼むのだ。
その後は、王宮の薔薇園が逢瀬の場所となる。
ちなみに……ゲーム内でミシェルが婚約者として登場するのは、この中盤からで、後半にかけて主人公マリーへのイジメが酷くなるのであった。
本から顔を上げて、木に隠れるようにしてルシエルが中庭の様子を伺っていると、そこにマリエらしき人物がやって来るのを見つけた。
(ウソ……来た……)
それがマリエだと認識した途端、ルシエルの心臓はあり得ないくらい早鐘を打ち始めた。
これはゲームではない。
だから、選択イベントなんて存在するわけがないし、例え今日二人がここで会ったとしても、今後もずっと都合よく出会えるなんてあり得ない。
そう、頭の隅で思っても、ルシエルの知らないところでマリエやアルフレッドに何かが起こる事は否定できない。
(出会って、色んな偶然が重なって、恋に落ちる。それが現実であるとするならば、まさに運命の二人じゃないか……)
「あ、……っ!!」
マリエと反対の方からアルフレッドがやって来るのを見て、ルシエルは泣きそうになった。
なぜかアルフレッドは誰も伴っておらず、一人で歩いている。
まるで何かを探しているように、顔を巡らせ……中庭のちょうど真ん中で、マリエと対面した。
マリエが嬉しそうにアルフレッドに駆け寄って行ったのを見て、ルシエルの胸がチクチク痛みだす。
(もしかして、マリエはもう、アルに恋をしてる?それとも、ジローが言っていたように、人懐こいから?)
二人が何を話しているかは全く聞こえないが、アルフレッドの言葉にマリエが笑顔を返すのが見えた。
(そうか……マリエはアルフレッドルートに入ったんだ)
認めたくない事実を見てしまったルシエルは、フラリと立ち上がる。
そして中庭を背にして校舎に入った。
その足で医務室にいるランバートに体調が悪いからと伝えたルシエルは、そのまま帰路に着いた。
家に帰ると従事がルシエルの様子を心配してくれたが、ルシエルはそれを無視して部屋に入り、ベッドの中で声を立てずに泣いた。
次の日から、ルシエルは頻繁にマリエを中庭で見かけるようになった。
ルシエルがマリエを見かけた日は、避けるように温室に籠った。
そこにいれば、アルフレッドとマリエの逢瀬を見ずに済むと思ったからだ。
それから一月程経ったある日。
ミシェルが夕食後に珍しくルシエルの部屋を訪れた。
「ミィ、どうしたの?」
思いつめたようなミシェルの様子に、ルシエルは心配した。
部屋に重い空気が流れる。
「ルゥ、最近、様子が変よね?……って言うか、何か悩んでいるでしょう?」
「え?悩み?……ないよ?」
ルシエルの悩みと言えばマリエの事だが、ルシエルはそれをミシェルに話す気は無かった。
「嘘。私達双子の間に、嘘が通用すると思ってるの?」
しかし、ミシェルの勢いにルシエルはたじろぐ。
そこでミシェルは大きく息を吐いた。
「ルゥに用があって、中庭に行った時ね。見たの。アルフレッド様がマリエ様とお二人で話されているところを」
「……」
ミシェルの話の内容に衝撃を受け、ルシエルは雷に打たれたような状態になった。
間違いなくミシェルはマリエに良い感情を抱いていない。
「他にもその現場を目撃した方もいらっしゃいますわ。……ルゥも見たんでしょう?それで、あの子の事、気にしてるんでしょう?」
ミシェルの心の中までも見透かしてしまうような目に耐えられず、ルシエルは思わず下を向いた。
その手が少し震えていることに気付いたミシェルは、ルシエルを優しく抱きしめる。
「大丈夫よ。何も心配する事ないわ」
ミシェルが優しい言葉をかけてくれていたが、ルシエルは頭の中がぐちゃぐちゃになっていて、何も返事をする事は出来なかった。
何がどうなっているのか分からない。
これは、ゲームなのか、現実なのか。
自分が今いる世界は何なのか。
ただ、今ルシエルが分かるのは、ミシェルの温かさだ。
それを確認するかの様に、ルシエルはミシェルをきつく抱きしめ返した。
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