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前世の記憶 …2
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ルシエル……いや、前世の名前はイトウマモルといった。
細かいことは思い出せないが、マモルはニホンと言う国に住んでいた。
シャカイジン……そう、社会人だった。
歳は、30ぐらい。
結婚はしていなかった。
農家を営む両親と…あと、姉がいた。
マモルはトウキョウの会社に就職して一人暮らしをしていた。
会社とアパートを往復する日々。
趣味はゲームだった。
友達…と言うか、親しくしていた友人はいなかった。
両親や姉とも疎遠にしていたと思う。
そんなある日、仕事帰りに……車に、轢かれて……
そこからの記憶がない。
きっとその時、前世を終えたのだ、とルシエルは理解した。
その記憶から目覚めた時、ルシエルは泣いた。
結婚もせず、不慮の事故で寂しく死んだ自分が可哀想だと思った。
きっと神様が、あんな風に死んだ自分を哀れに思って、新たな生を授けてくれたのだと。
神様に感謝して、今世では精一杯幸せになろう。
そう、心に誓った。
「ルゥ!!」
ルシエルが目覚めたと知って一番に部屋に飛び込んで来たのはミシェルだった。
ちなみに二人はお互いを、ルゥ、ミィと愛称で呼び合う。
「ミィ…」
「ルゥ!大丈夫?痛いとこ無い?」
泣きそうな顔のミシェルが、ルシエルの手を取った。
「うん。大丈夫。寝過ぎてボーッとするくらいかな?」
「ホントっ?良かったあぁ〜」
ギュッと抱き合ったところで、今度は両親が転がるように部屋に入って来た。
「ルシエル!」
「ちちうえ、ははうえ」
「まぁ!ルシエル!どこか悪いところはない?痛いところは?どうなの?大丈夫?」
これまた泣きそうな顔をした女性は、ルシエルの母。
綺麗な金髪は、この母から譲り受けた物であろう。
自慢の美しい母だ。
「もう大丈夫」
「あぁ、良かった。トニー!お医者様を呼んで。もう一度詳しく診てもらいましょう」
トニーと呼ばれた使用人は「かしこまりました!」と慌てて部屋を出ていった。
大丈夫だと言うのにここまでするのは過保護だと思うが、母の愛ゆえ、とルシエルは何も言わずに母の抱擁を受けた。
「ルシエル。心配したぞっ」
母の次に自分に抱きつこうとしている父も、自慢の父だ。
領主ではあるが、王宮で仕事もしていて、見た目もカッコいい。
前世で言うところの三高だ。
ルシエル達の綺麗な紫色の瞳は、この父から譲り受けた物であろう。
「あの馬車に乗っていた御者は厳しく処分するからなっ」
父のその言葉を聞いて、何のことかと一瞬首を傾げたルシエルだったが、その意味を理解して慌ててベッドから飛び起きた。
「ちちうえ!見てください!僕はこんなに元気です!あれは僕が馬車道に飛び出したのが悪いのです。それに、馬車は手前で止まってくれたし、怪我をしたのは自分で転んだせいだから…。それを御者のせいにして処罰なんてしないで!」
「……え?」
ルシエルの言葉に、父は口を開けたまま固まった。
父だけでない、母もミシェルも……周りの使用人達も驚いた顔をした。
なぜなら、今までのルシエルなら、父の言うようにその御者を処罰することを望んでいただろうから。
領主の権限で、どうにかして、と。
しかし、今のルシエルは30歳を生きた記憶があった。
つまり自分の感情で我儘を言うような子供ではなくなっていたのだ。
「これくらいの事で騒いだら、父上が悪く言われてしまうかもしれません。それは嫌です」
「え?……あっ…あぁ。そうか?そう、だな。わかった」
周りの者はルシエルのその代わり様に驚きを隠せない。
「まぁ!…まぁ!トニー!!お医者様は⁈お医者様はまだなのっ?」
母が慌てるのも仕方ないこと。
誰もが、ルシエルは転んだ際に頭を打っておかしくなった、と思ったのだ。
実際は、ただ真っ当な事を言っただけなのだが。
その後の医者の診立てでも特に異常は見られなかった。
それまで陰で使用人の間で「見た目だけ天使」と言われていたルシエルが、「マジ天使」と言われるようになったのは、それからしばらくしてからの話である。
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