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学園での噂 …1
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入学してから半年が経ち、学園にも慣れた頃。
ルシエルは一人、園芸クラブの温室に向かっていた。
ルシエルが園芸クラブに顔を出すのは、剣術クラブがある日のみ。
つまりそれは、アルフレッドと園芸クラブで鉢合わないようにするためだった。
温室で初めてアルフレッドと会った日、特別な感情を持ってアルフレッドを意識してしまったルシエル。
前世で憧れていた王子が、自分の名を呼んで、触れて、事故とは言え抱きしめ合った。
仮面を着けていたあのパーティとは違う。
あの時はルシエルはルシエルでなかったのだから。
しかし温室での出来事は、アルフレッドが『ルシエル』を認識した上での事だ。
二次元ではない、温もりのある三次元……いや、リアルのアルフレッドを頭と身体で感じて、意識するなと言うのは無理だった。
しかし、アルフレッドは姉ミシェルの婚約者。
ひっそりと想う事ですら罪だと考えたルシエルは、その想いが育たぬようにアルフレッドとの接触を避けるようになった。
あれから二度ほど、ミシェルと共にランチに誘われたが、悪いとは思いつつも病気だと嘘をついて、行く事はしなかった。
いつもの温室へと向かう途中のことだ。
待ち伏せをしていたのか、同じクラスの男子生徒がルシエルを呼び止めた。
「ルシエル君、ちょっといいでしょうか?」
その堅い表情にルシエルは身構えたが、ダメだと断る理由もないので頷いた。
「ええ。なんでしょう?」
「あの、ミシェルさんって、アルフレッド殿下と親しくされているようなのですが……」
ルシエルは、またか、と内心溜息をついた。
その地位と見た目で、ミシェルは男子学生の間でよく話題になっていた。
ゲームのような高飛車ワガママお嬢様ならそうはならないだろうが、現在のミシェルは気高いところはあれど決して驕るような態度を取ることはしなかった。
ゲームとは違い、今のミシェルは高嶺の花のような存在として男子生徒に人気があったのだ。
そんなミシェルを狙っている男子生徒達は、彼女がアルフレッドと親しくしている事が気になるのだろう。
特に最近、ミシェルは同じ読書クラブのハンナとほぼ毎週剣術クラブの見学に行っていた。
「そうですね……うちの父は財務省の長官ですし、その関係で殿下とは仲良くさせていただいております」
ルシエルはいつもと同じセリフを吐いた。
婚約の事を言った方が早いのにと思うが、正式な発表がされるまでアルフレッド自信が言いふらすつもりがないようで、ルシエルもそれに倣って言うことはしなかった。
「そうなのですか。……あの、それ以上のことは?」
「それ以上、とは?……と言うか、そう言うことは僕じゃなくてミシェルに直接聞いた方が早いと思います」
「いや……その……」
男子生徒が何か言いたそうに口ごもったので、ルシエルは首を傾げて次の言葉を待った。
「アルフレッド殿下の噂……ご存知ですか?」
「噂、ですか?」
アルフレッドの噂と聞いても、ルシエルにはピンと来るものはなかった。
ルシエルは続きを促すように、その生徒に視線を送る。
「いえ、その、私の兄が、アルフレッド殿下と同じ学年で……その……あまり良くない噂を……。いえ!あの、ご存知ないのなら、結構です」
「えっ?……待って!!」
その男子生徒が去ろうとしたので、ルシエルは慌てて呼び止めた。
噂などと聞かされて、言い逃げされては堪らない。
「噂って、どのような噂ですか?」
立ち止まった男子生徒が、気まずそうにして、周りをキョロキョロと伺った。
「いえ。あの……」
彼の様子を見て、どうやら口にすると良くない噂、つまり、不敬に値する内容なのだろうとルシエルは推測した。
「アルフレッド殿下には言いませんし、誰かに告げ口したりはしませんから。ルーズベルトの名において約束します。教えてもらえませんか?」
悩んだ様子だった彼が、ルシエルの気迫に押されて渋々と口を開く。
「その……女の、噂、なのです」
「女?」
ルシエルは、言われていることがピンと来なかった。
アルフレッドは今はミシェルと婚約している。
その彼に女の噂と言われても、何のことか全く想像が出来なかった。
ゲームでも、ミシェル以外の女の存在はなかった筈だ。
「いえ、その……色んな女性と噂があるとか……なんか、そーゆーことです。兄の級友とも関係があったらしいので……なので、その、ミシェルさんが泣くような状況にならないかと……その、僕は心配して……」
その男子生徒の言葉を聞いて、ルシエルは頭を鈍器で殴られたような気がした。
まさか、アルフレッドが女遊びするような男だとは思わなかったし、思えなかったからだ。
しかし、ルシエルは現実のアルフレッドとは数えるくらいしか言葉を交わしたことがない。
知っているのは、ゲームの中のアルフレッドでしかない。
だから、彼の言葉を完全に否定することは出来なかった。
「いえ……まさか……」
「複数の女性と二人でいるところを、兄は見ています。それも、友人らしからぬ距離だったとか。……まぁ、昨年の話なのですが」
「……」
ルシエルは、もう何も言うことが出来なかった。
男子生徒は「本当に誰にも言わないでください」と念を押して、頭を下げて去って行った。
「う、そ、でしょ」
一人残されたルシエルは、思わずそう呟く。
ゲームにそんな設定はなかった。
キャラ紹介にも書いていなかったとルシエルは記憶している。
では、先程の男子生徒が言った言葉は嘘なのか、本当なのか。
ルシエルには分からない。
ゲームの中では綺麗に描かれていたが、本物のアルフレッドはそう言う部分があったのかもしれない。
いや、あるのかもしれない。
アルフレッドは遊び人で、ミシェルもそのうちの一人。そう考えれば、ミシェルを愛していなかった理由も分かる。
そんな中、主人公マリーと出会って愛を知り、落ち着く、と言うオチなのかもしれない。
遊び人だからこそ、婚約者ミシェルがいる身でありながら主人公マリーに目移りするのだ。
そう、ルシエルは考えた。
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