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ルシエルの策、その2 …2
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「……やっぱり、聞いてなかったのね」
ルシエルからアルフレッドが来る事について尋ねられて、ミシェルは大きなため息を吐いた。
「先日の模擬戦の後、ご挨拶したでしょう?その時、今度お茶でもって話になって、レオン様がルゥの育てているバラを見るのはどうかと提案されて……って、本当に何も聞いてなかったの?」
「なにも……」
青ざめているルシエルを見て、ミシェルは再びため息を吐いた。
「とにかく、もう決まった事なのよ。明日の午後、お二人がいらっしゃるわ。その時に、裏庭を案内してちょうだいね?」
「えっ?僕が⁈いや、それはミィが……」
「何を言ってるの。アルフレッド様との関係を修復する良い機会じゃないの?その様な態度ばかり取っていると、そのうち不敬罪にでも問われるわよ?とっととその陰気臭い壁を取り払うことですわ」
「う……」
"陰気臭い"と言われて、ルシエルは言葉を無くした。
「と言う事で、明日、宜しくね。私はこれからお茶菓子の打ち合わせなのよ。それでは」
ヒラヒラと手を振りながら去って行ったミシェルを見送った後、ルシエルは慌てて裏庭の掃除の手伝いに走るのであった。
そして、次の日の午後。
庭の見える応接室には、ルシエルとミシェル、そしてアルフレッドとレオンがテーブルを挟んで座っていた。
「もう少し暖かくなれば、テラスでお茶をするのも気持ち良いんですの」
「へぇ。それは良いね。どんな花が咲くか見てみたいな」
「えぇ。その時期になりましたら、また是非お越しくださいませ」
主にミシェルやレオンが話題を振って、アルフレッドが返事をするといった感じで、お茶会は楽しく進んでいた。
ちなみにルシエルは緊張しっぱなしで、ほとんど相槌だけで終わっている。
「アルフレッド様も、庭を見ながらお茶をするのが好きなんですよ」
「まぁ!そうなのですか?そう言えば、ルシエルの育てるバラをご覧になりたいとの事でしたが、バラに興味がおありなのですか?」
ミシェルがそう切り出したのを聞いて、ルシエルは"来た"と、手を握りしめた。
「うん。バラというか、草花全般なんだけどね。ハハッ。男にしては軟弱な趣味かな?」
アルフレッドはそう言ってチラリとルシエルに目線をやったが、緊張していたルシエルはそれに気付かなかった。
「そんな事ございませんわ!って言うか、ふふっ、うちのルシエルも花を育てるのにハマっておりますもの。それを見ているからか、花を育てるのは大変な事だと、知識も体力も必要な仕事だと十分理解しております。立派な趣味ですわ」
ミシェルのその言葉に、ルシエルはとても嬉しくなった。
ミシェルのために始めたバラ栽培だったが、それをちゃんとミシェルが見てくれていた事に喜びを隠せなかった。
フニャリと口元を緩ませたルシエルの顔を見て、アルフレッドは思わず目を奪われた。
初めて見るそのはにかんだ笑顔を、もっと近くで見てみたいと思った。
「そうだ。アルフレッド様、そろそろ裏庭に案内してもらってはいかがでしょう?」
レオンのその言葉に、ルシエルは顔を上げた。
伺うようにミシェルを見ると「しっかりやりなさい!」と目が語っている。
「え、えぇ。今は花が少ない時期ですが、もし宜しければご案内いたします」
他人に、しかも王太子に見せるようなレベルの庭ではないが、見たいと言うものを拒否できるわけもなく、ルシエルは緊張しながらもそう伝えた。
「あぁ、宜しく頼む」
「では、参りましょう」
と、全員が立ち上がったところで、レオンが「あっ」と、声を上げた。
「あの、ミシェル様」
「何でしょう?」
「ルーズベルト家の書庫はとても素晴らしいものだと聞いた事があります」
「えぇ、そうですわね。外遊が趣味の祖父がお土産として珍しい書物をたくさん集めて来ますの。私の読書好きも、それがきっかけですわ」
「私、是非一度拝見してみたいのですが……」
レオンのその言葉に、ルシエルは驚いた。
訪れた家でいきなり書庫が見たいとは、ちょっと図々しいのではないかと思ったからだ。
そのレオンは、これはアルフレッドとルシエルを二人きりにするチャンスだ!と思いつき、無礼を承知でダメ元でそんな事を言ったのだが。
そしてミシェルは、レオンの考えなど知る由もなかったが、これはルシエルにとって良い薬になるだろうと考えた。
自分がいては、ルシエルは自分に会話を任せきりで、アルフレッドと会話しようとしない。それならば一層の事、二人きりにしてしまおうと考えたのだ。
思惑は違えど、レオンとミシェルの考えは一致した。
「えぇ!レオン様、宜しければこれからご案内いたしますわ!……ルシエル、アルフレッド様の案内をお願いしてもよろしくて?」
「ええっ?」
「ミシェル様、ありがとうございます!ではルシエル様、アルフレッド様のこと宜しくお願いいたします」
宜しくって何だよ!と心の中で盛大に突っ込んでから、ルシエルはアルフレッドを見た。
アルフレッドはアルフレッドなりに焦っていた。
レオンが自分に何を期待しているのか気付いたのもあるし、二人きりにされたところで、どうして良いか分からなかったからだ。
ただ、アルフレッド自身もルシエルの事でレオンに迷惑をかけている自覚はある。
だから、レオンの機転を受け入れようとすぐに気持ちを入れ替えた。
「ゴホン。じゃあ……ルシエル君、お願いできるかな?」
「えっ?……あっ!はい!」
ニコリと微笑んでこちらを振り向いたアルフレッドに、ルシエルは胸を掴まれたような感覚がした。
ぐらりと気持ちすら持っていかれそうな感覚が伴い、グッと奥歯を噛んだ。
「ッ。こちらです」
そう言って、緊張しながらも裏庭へと案内した。
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