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新たな展開 …4
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「ははっ。冗談だよ。いや、ミシェル嬢が美しいのは冗談ではないが。……そんなに構えないでくれ」
イーサンがいつものキリリとした顔で笑った。
「えっ?あっ……すみません」
過剰に反応してしまった事に、ルシエルは恥ずかしくなった。
「それ、今から片付けるのか?」
「え?あ、そうです」
イーサンがルシエルが抱えているバケツと麻袋を指差した。
イーサンの視線につられて、ルシエルが手元に目線を落とした時、手に持っていたバケツがひょいと奪われた。
驚いて前を向くと、いつの間にか目の前に来ていたイーサンに、麻袋まで奪われた。
「わ、わっ」
「どこに片付けるんだ?手伝おう」
「えっ?……いえいえいえ!バハーク殿下にそのような事させられませんっ!」
「いや、一緒に行った方が、時間の無駄もなくていいだろう?」
「それならば私が持ちます!」
「なぜだ?どう見ても私の方が力があるだろう?ならばここは私が持つべきだろう」
(確かにバハーク殿下の方が背は高いし力も強そうだし、いい身体してそうだけど。って!そーゆー事じゃない!)
「殿下っ!それは私の仕事ですので!もし誰かに見られでもしたら……っ」
ルシエルはそれらを奪い返そうと手を伸ばしたが、イーサンはそれを軽々と持ち上げた。
持ち上げられては、ルシエルは届かない。
ルシエルがグッとイーサンを睨むと、視界の端に怖い顔をした護衛が映ったので、ルシエルは慌てて一歩引いた。
「ではこうしよう。私の事は名前を……イーサン、と呼んでくれないか?敬称も必要ない。言葉もかしこまる必要はない。そうしてくれるなら、友達として返そう。どうだ?簡単な事だろう?」
先程から何を考えているか読めないイーサンに、ルシエルはタジタジだった。
ニヤリと笑うイーサンに、ルシエルは多少苛立ちを感じた。
道具を持たせたままなのも不敬だし、呼び捨てタメ口も不敬だ。
「うぅ……。では、イーサン様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「呼び捨てでいいのだが?」
「いえ。せっかくのご好意、大変嬉しいのですが……。我が国の王子殿下を呼び捨てになど出来ないのに、なぜ他国の王子殿下を呼び捨て出来ますでしょうか?言葉遣いにしても同様です。お察し願います」
イーサンの好意を無下にしたと怒りを買うのではないか、とルシエルはドキドキしながら頭を下げた。
「……まぁ。確かに、一理あるな。同じ学年に第二王子のエドワード殿がおられるが……だからこそ、だな。分かった」
イーサンは怒った様子もなく、ルシエルの苦し紛れの言い訳を飲んでくれた。
ルシエルは気付かれないように静かに安堵の息を吐いた。
「では、代わりにこうしよう。今度、一緒にカフェに行くと約束してくれないだろうか?」
「えっ?」
「うん。それが良い。決まりだ。……じゃあ、こっちを」
「わっ」
イーサンにバケツを押し付けられて、ルシエルは慌てて受け取った。
「では行こう。……どうした?これはどこに片付けるのだ?」
先に歩き始めたイーサンが振り返ったので、ルシエルは慌てて追いかける。
「いえ!そちらの袋もお返しください!」
ルシエルにバケツは返したが、重い麻袋の方はイーサンが抱えたままだ。
「良いではないか。こういう事も留学中にやってみたいのだ。誰かと一緒に同じ作業をするなど……今だけ出来る事なのだ」
イーサンがフッと笑う。
その一瞬の顔がなぜか悲しそうに見えたので、ルシエルはそれ以上強く言えなくなった。
ここではまだ友達のいないイーサン。
友達のいない辛さや寂しさは、ルシエルは過去の経験によって誰より分かっていた。
しかもイーサンは、家族と離れている上に土地勘もない。
それを考えたら、イーサンを突き放す事に罪悪感を感じてしまった。
「あの……ではせめて、そちらと交換しませんか?」
「ん?何のことだか。……ほら行くぞ。あっちか?」
さも軽い物のように麻袋をヒョイと抱えたイーサンは、スタスタと歩き出す。
「あ……っ。ハイ!」
慌ててルシエルが後に続く。
これだけ強引なら、すぐ友達が出来そうな物なのに、とルシエルは考える。
考えながら思い出すのはゲームの事。
確か、ゲーム中で主人公マリーも同じ事を考えた。
そして尋ねるのだ。
『すぐ友達が出来そうなのに、なぜ?』
それに対する答えを、ルシエルは思い出す事は出来なかった。
イーサンルートは、そんなにやり込んでいないからだ。
その答えが気になったルシエルは、思わず口を開く。
「あのっ、イーサン様」
「なんだ?」
目線だけをこちらに寄越したイーサンに、ルシエルはドキッとした。
そして気付いた。
イーサンが友達が出来ないことを悩んでいることを、今世のルシエルは聞いていない。
知っているのはゲームの知識があるからだ。
だから「友達」というワードを出す事を躊躇った。
ただし、声をかけた手前、何も言わないわけには行かず、ルシエルは必死に別の質問を考えた。
「あの、その……なぜ、私なのでしょうか?」
「話し相手の事か?」
「えぇ。はい。私のような者でなく、殿下……いえ、イーサン様にはもっと相応しいお相手が大勢いらっしゃるのではと思いまして……」
ルシエルのその質問に、イーサンは「んー」と唸った。
少し考えた後、口を開く。
「嘘の笑顔を向ける奴等とは仲良くなりたくないんだ」
そのイーサンの言葉を聞いて、ルシエルはチクリと頭の痛みを感じた。
(思い出した!"すぐ友達が出来そうなのに"の答えは……コレだ)
こんな偶然もあるのか?とルシエルは驚いた。
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