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千客万来 …1
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春になり、園芸部の活動が忙しくなってきた頃。
ルシエルが温室で一人作業をしている時だった。
カタリ、と温室のドアが開く音がしたが、誰かが入って来る様子はない。
不審に思ったルシエルが顔を上げて入口の方を見ると、そこに一人の男性が立っていた。
その姿にルシエルは驚きながらも、近付いて挨拶をする。
「エドワード殿下。どうされたのですか?何かこちらに御用でしょうか?」
温室の入口に立っていたのは、エドワード・ローゼンクラウン。
この国の第二王子である。
アルフレッドによく似た顔立ちが、ルシエルの胸を多少なりとも痛くした。
実は、ルシエルとエドワードは同じクラスなのだが、接点が全くなく、挨拶以外で言葉を交わした事は無かった。
アルフレッドと比べると多少線が細く、儚げな見た目の麗しの王子である。
しかし、中身に儚さなどない事は、同じクラスになった事で知らされた。
常に男にも女にも囲まれていて、人気者の王子様だ。
「今日は一人なんだな」
「……え?」
突然、よく分からないことを言われて、ルシエルは戸惑った。
「いや……最近よくイーサン殿下と一緒にいるだろ?」
「え?……あ、……はい。いえ、そう、ですかね?」
曖昧な返事になってしまった事に、ルシエルは内心焦ったが、エドワードは気にしていない様だったので、心の中でホッと一息吐いた。
なぜ、エドワードがこの様なことを言うのだろうか?とルシエルは考えた。
「……。何故この様な事を聞かれるのか、分かっていない顔だね?」
「えっ?」
心を読まれたのか⁈とルシエルは焦った。
そんなルシエルに、エドワードは淡々と言葉を続ける。
「私は、兄上……アルフレッド兄上の弟なのだが?」
アルフレッドの名前が出た事に、ルシエルはピクリと反応した。
エドワードが第二王子である事は、周知の事実だ。
つまり、アルフレッドの弟である事は、誰もが知る事である。
それをわざわざ言われた意味が分からず、ルシエルが二の句を継げないでいると、エドワードがフッと笑った。
「つまり、僕としては君のことを身近に感じているというワケ。だからさ、色々心配になっちゃってねぇ」
王族にしては砕けた物言いにルシエルはドギマギした。
「それに、なんて言うかさぁ、ウザいんだよね?兄上からの手紙がさぁ。君の事を聞きたくてしょうがない感じがさ。遠回しにあれやらこれやら……」
エドワードからアルフレッドの事を聞かされて、ルシエルは驚いた。
それと同時に、アルフレッドがエドワードに自分の事を告げているらしい事に恥ずかしさを感じた。
それに構わず、エドワードは話を続ける。
「あー、うん。心配しなくても皆知ってるよ?父上も母上も、僕たち兄弟も。君は兄上……アルフレッド兄上と只ならぬ関係らしいね?」
ニコニコと楽しそうにそう言ったエドワードに、ルシエルはどう答えて良いのか分からなかった。
国王と王妃まで知っているという事を、わざわざ王子から聞かされる意味は何だろうと、ルシエルは青ざめた。
何か悪い事を言われるのだろうと思わず身構える。
その様子を見たエドワードは、楽しそうに笑った。
「ははは。そう怯える必要はないよ?ほとんど反対されてないから!」
エドワードの言葉をルシエルは頭の中で反芻する。
反対されてないのは嬉しいが『ほとんど』という事は、全てではない。
アルフレッドとルシエルの事を反対している者もいるのだとルシエルは改めて知らされた。
分かっていても、他人から言われる辛さに、ルシエルはこっそりと打ちのめされた。
「兄上の変化には皆驚いたよ。あぁ、もちろん良い意味での変化だよ?で、家族会議が開かれたくらいだからねっ。……はははっ。あの、兄上が……っ。こんなに誰か一人に溺れる、なんてっ!……ははっ、……くくくっ!」
エドワードが何かを思い出したように笑った。
何が面白いのかルシエルには分からないが、突っ込める訳もなく、エドワードが落ち着くのを不思議な気持ちで待った。
一通り笑って息を整えたエドワードは、アルフレッドには無い人懐こい笑顔でルシエルを見た。
「失礼。……コホン。つまり、兄上への手紙の返事に君のことを書いてあげようと思って。まぁ、手っ取り早く、仲良くなるべきだと思ってね」
そう言いながらエドワードはルシエルに手を差し出した。
「と言うわけで、君とは友達になりたいと思う。よろしく頼むよ」
「あ……は、い」
この手を取ってもいいものだろうか?とルシエルは悩んだが、出された手をそのままにしておく訳にはいかず、おずおずと握手に応えた。
ルシエルの手をブンブンと振り、満足顔でエドワードは微笑んだ。
「とりあえず、僕のことはエドと呼んでくれたまえ。君のことはルシエル……でいっか」
「はい。……えっ!?いえ!恐れ多くてその様な……!」
エドワードのペースにルシエルが困った顔をすると、エドワードは少し唇を尖らせた。
「まぁ、そうか。兄上の事はアルフレッド様、だっけ?それ以上に仲良しな感じは無理か。……じゃあ、エドワード様でいいよ」
「は、はい。分かり、ました」
あれよあれよと言う間に、ルシエルはエドワードに流されて、どうやら友達になった。
「……でも、兄上と二人きりの時は"アルフレッド様"なんて呼んでないだろう?呼び捨て?……いや、それとも、愛称で呼び合うのかな?」
「あ、いえっ、あのっ」
突然のエドワードの爆弾質問に、ルシエルは顔を真っ赤にして狼狽える。
その反応を正しく読み取ったエドワードは、嬉しそうに笑った。
「っ、くくっ!そっかぁ!兄上ってば、本当にルシエルの事は特別なんだね!そりゃ、応援しなきゃだなぁ」
一人何かを納得したエドワードは、パシパシとルシエルの肩を叩いた。
「まぁ、君も薄々感じているだろうけど、兄上と君の事をよく思っていない人たちもいてね……。その筆頭が父上なんだ」
エドワードの言う"父上"が誰かを考えて、ルシエルは顔を青くした。
「そのせいで、今回僕の代わりに兄上が留学する事になっちゃって。本当にすまないと思ってるよ。……でも、個人的にはすごく感謝してるんだ」
エドワードはそう言って、パチンとウインクした。
「さーて、とりあえず帰って兄上に手紙を書こうっと!ルシエルと仲良くなった、ってね!ふふふ!驚くだろうなぁ……くくっ!じゃあ、また!」
「えっ?あっ!はい!お気を付けて…………って、もういない」
嵐の様だったエドワードの訪問に、ルシエルはしばらく呆然と、その場に立ち尽くしたのだった。
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