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千客万来 …4
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ミシェルとヴィヴィアンが仲良くなってから数日後、ミシェルはクラブ活動のない日の放課後は、ルシエルを図書館に連れて行くようになった。
図書館の隅で王宮の歴史や周辺国に関しての本を広げて、講義を行う。
もちろん、学園でも基本的な事は習っているが、それより細かい知識をルシエルに与えた。
「アルフレッド様の為よ!」と押し切られれば、ルシエルはミシェルに逆らう事など出来ない。
また家に帰れば、今までそこそこにやって来た貴族としてのマナーを、ミシェルはルシエルに叩き込む。
ルシエルにとって迷惑そのものだったが、両親を始め家の者は皆それを暖かく見守っており、誰も助けてはくれなかった。
それどころか「マナーの先生を呼びましょうか?」と言われるほどだ。
そんなある日、ルシエルとミシェルが図書室で勉強していた時である。
二人のもとに、レオンがやって来た。
「頑張っているね」
「まぁ、レオン様!どうされましたの?」
レオンの姿を見たミシェルが、嬉しそうに微笑む。
喋り方やその雰囲気から二人の仲の良さが伺えて、ルシエルは釣られて微笑んだ。
レオンを見つめるミシェルの笑顔に、悪役令嬢の面影は無い。
そんな二人に、ルシエルは幸せな気分にさせられた。
「少し、時間が出来てね。ここに来れば会えると思って。……ルシエル様、お久しぶりでございます」
「レオン様、お久しぶりです」
「本当に……一月ぶりでしょうか?最近、アルフレッド様へのお手紙を頂けず、寂しい思いをしておりました」
「あ……っ、それは、その……」
実は、ルシエルはここ一ヶ月ほどアルフレッドに手紙を書けずにいた。
きっかけは、イーサンと仲良くなった事である。
ある日、近況を手紙に書いて、それを読み返した時、その内容の殆どがイーサンとの事になってしまっていた。
なぜアルフレッドへの手紙に、アルフレッドの知らない他人の事を書いているんだと、自分につっこんだ。
ふと、もし逆にアルフレッドからこんな内容の手紙が届いたら……というような事が頭をよぎった。
ルシエルが気付いた時には、その手紙を握りつぶしてしまっていた。
自分が見ている前でならまだしも、自分が知らないところでアルフレッドが誰かと仲良くなっていたら……
それが女でも男でも許せない気がした。
ではイーサンの事には触れずに手紙を書こうとペンを持ち直したのだが、そうするとイーサンとの事を秘密にしているような気持ちになってしまい、筆が進まなくなってしまったのだ。
「なにか一言でもいいので手紙をいただければ、私も……何よりアルフレッド様がお喜びになるかと」
レオンが寂しそうな顔をした。
「ルゥ、アルフレッド様にお手紙を差し上げてないの?どうして?」
「あ、うん……書く内容が思い浮かばないと言うか……」
ミシェルの質問にルシエルがハッキリ答えられずにいると、ミシェルが自分のカバンから便箋を取り出した。
「もう!今日のお勉強より大事な事だわ。今から、アルフレッド様にお手紙を書きなさいな」
「えっ?」
「レオン様、少しお時間ありますか?」
「えぇ、少しなら」
「と、いうわけで……一言でも良いのよ?書く内容がなければ、アルフレッド様への質問にすれば良いじゃない。……遠距離恋愛で重要なのは、密に連絡を取り合う事よ?ね?分かった?」
「う、ん」
「では。レオン様、カフェに新しい紅茶が入りましたの。よろしければご一緒してくださらない?」
「喜んで」
「じゃあ、ルゥ、頑張ってね?私たちがいない方が書けるでしょう?30分くらい……で戻ってくるわ」
そう言って、ミシェルとレオンは楽しそうにその場から離れて行った。
「……はぁ」
そんな仲睦まじい二人の後ろ姿を、ルシエルは羨望の眼差しで見つめた。
(アルフレッド様、元気かな?……それ以前に、危ない事はないだろうか……)
ミシェルからもらった便箋を前に、ルシエルは大きなため息を吐いた。
手紙を書かないと言う選択肢は無い。
ルシエルも分かっている。
自分だって、突然アルフレッドからの手紙が滞ったら、心配するだろうし、寂しくなるだろうし、何より不安になるはずだ。
先月アルフレッドから届いた手紙には、ルシエルを気遣う文章がこれでもかと書かれていた。
ルシエルはその返事を出せていない。
アルフレッドは学業に公務にパーティの誘いに……と忙しいらしく、お互いこの一月は一通も手紙のやり取りはしていない。
(そもそも、イーサンと仲良くし過ぎな自分が悪いんだ。……やましい事なんて無い。けど、寂しさを紛らわすのに利用している事は……否定できない)
イーサンは、王子としての気高さを持ってルシエルに話しかけて来る。
その王子たる雰囲気がなんとなくアルフレッドを思い出させて、ルシエルはイーサンを拒めずにいたのである。
ウンウン唸って、とりあえずアルフレッドの名前を書こうとペンを走らせた時であった。
「ルシエル?」
その声に振り向くと、そこにはイーサンが立っていた。
「あっ!イーサン殿下」
ルシエルが慌てて立ち上がろうとするのをイーサンが制して、ルシエルの隣の椅子を引いて腰掛ける。
今までイーサンの事を考えていたせいもあって、ルシエルはソワソワと落ち着かない気分になった。
「え……と、何か探し物ですか?」
「あぁ、少し調べ物をね」
そう言ったイーサンの目線が、自分の手元に来ている事を感じたルシエルは、何気ない風を装って便箋を裏返した。
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