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攻防 …1
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4月になったある日。
「二人は……付き合ってるのか?」
それは、突然の質問だった。
ルシエルとミシェルの友人ハンナの二人で、図書館で勉強していた時、二人の座るテーブルにイーサンがやって来て、おもむろにルシエルの隣に座った。
ルシエルとハンナが驚いたところで、飛んできたのが先の質問である。
「え……と?」
ルシエルはその質問の意味を理解するのに時間を要した。
その顔を横目で見たハンナは、イーサンにニッコリと笑顔を見せた。
「うふふ。そんな風にハッキリ言われると、恥ずかしいですわ」
否定も肯定もしないハンナの答えに、ルシエルも慌てて笑みを作った。
イーサンはハンナの答えにニコッと笑顔を返すと、ルシエルの方に顔を向けた。
「で?付き合ってるのか?」
「チッ」と、心の中で舌打ちしたのはハンナである。
ミシェルからある程度聞かされているハンナは、イーサンが勘違いしているなら、そのまま勘違いさせておいた方が無難だろうと判断したのだ。
しかしイーサンはそんなハンナをある意味無視して、ルシエルに向き合った。
そのイーサンは、ルシエルとハンナが付き合っているらしいと言う噂を聞いて、居ても立っても居られなくなって、今こうしてここに来ている。
ルシエルに婚約者がいないと聞いて喜んだ後だったので、尚更気になって、本人に確認しに来てしまったのである。
何せ、もう4月。
学年が終わるのが6月……つまり、イーサンがこの国に居られる期間が、あと3ヶ月を切ったからだ。
国元に留学の延長を打診したみたが、返事はノーだった。
「えーと、仲良くさせて頂いています」
そんなイーサンに、ルシエルはハンナを真似てシラを切る態度を返した。
その答えが気に入らなかったイーサンは、再びハンナに笑顔を見せた。
「少しの前、ルシエルを借りても良いだろうか?」
イーサンの言葉に、ハンナはグッと言葉を詰まらせた。
特に、断る理由が見当たらない。
「……はい。構いません」
「では、行くぞ」
「えっ?あっ」
イーサンはそう言ってルシエルの手首を掴んで立たせた。
「勉強の続きがありますので、なるべく短い時間でお願いいたします」
突然の事に為すがままイーサンに手を引かれて去って行くルシエルの背中に、ハンナはそう声をかけるのが精一杯だった。
イーサンとルシエルが見えなくなってからすぐ、ハンナはミシェルに報告すべく立ち上がった。
中庭の奥まで連れて来られたルシエルは焦っていた。
ミシェルに"イーサンとは二人きりになるな"と言われていたのに、二人きりになってしまった上に、周りに人がいない場所に連れて来られたからである。
さらに、イーサンは機嫌が悪いときている。
先程から掴まれている手首が、やけに痛く感じた。
「あ、あの、イーサン殿下。どちらまで……」
意を決してルシエルがそう声をかけると、ようやくイーサンが足を止めた。
そして手首を掴んだままルシエルを振り返る。
「あの女とは、男女の関係なのか?」
表情の読めない顔で、イーサンはストレートにそう聞いてきた。
「……っ。いえ。ただの、友人です」
男女の仲であると、自分にはそう言う相手がいると嘘をつけば、イーサンは自分に執着するのをやめるかもしれないとルシエルは思った。
しかしここで『男女の仲だ』と言えば、何か良くないことをされるような気がして、ルシエルは思わずそう答えていた。
「……では、想い人か?」
「…………いえ」
「そうか」と呟いたイーサンは、それからしばらく黙ってしまった。
ルシエルは、そんなイーサンにかける言葉が浮かばず、一緒に黙っておくしかなかった。
いつまでこうしているんだろうとルシエルが思った時、イーサンは手を引いたまま元来た道を戻り始めた。
図書館に戻るのかな?とルシエルがホッとしたのもつかの間、すぐそばのベンチに座らされた。
もちろん、イーサンに手首を掴まれたままである。
イーサンは地面を見つめて、大きく息を吐いた。
「私は、何をやっているんだろうな?」
「は?……あ、えと」
突然、自重気味になったイーサンに、ルシエルは困惑した。
手を振り払って逃げ出したい。
しかし、そのきっかけが見つからず、オロオロするしかなかった。
その、イーサン本人も困っていた。
普段冷静な自分が何をやっているんだと、ふと我に返ったのである。
もっと上手くルシエルと距離を詰めるはずだったのに、ルシエルとハンナが楽しそうにしている姿を見て、頭に血が上ったのだ。
そんな自分に笑いが込み上げた。
そして、自分をこんな風にしたルシエルを、どうしても手に入れたくなった。
「この2カ月。お前にに色々仕掛けてみたけれど、どれもうまく行かなかった。と言うか、お前は俺を全くそんな対象として見ていない」
何を仕掛けられたのだろう?とルシエルが考えていると、突然イーサンがルシエルの方を向いた。
「意識されていないなら、させれば良い」
ニッと笑ったイーサンの笑顔に危険信号を感じたルシエルは、思わずイーサンの手を振りほどいた。
しかし、イーサンはそんな事気にする様子もなく続けた。
「私は、お前の事が気に入っている。……私の妃になれ」
「……………………は?」
ルシエルはイーサンの言葉に反応を示すのに、十数秒を要した。
「真面目に考えて欲しい。私と一緒にインディール国に来ないか?」
イーサンの言った意味を理解したルシエルは、ルシエルに伸ばされたイーサンの手を避けるように立ち上がった。
「あ、あの!……そのっ!スミマセン!」
そうして、そのままその場から走り去った。
残されたイーサンは、自分の行動に自然と笑いが込み上げる。
「逃すものか」
その呟きは、ルシエルに届く前に、風に乗って消えていった。
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