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ゲームの舞台 …2
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ルシエルがマリエを見かける機会は、思ったよりもすぐに訪れた。
学園に復帰した日の放課後、ルシエルが中庭へ花の手入れに行った時だ。
一人で花壇の花を眺めながら歩く女生徒の後ろ姿を見かけて、ルシエルはその場に佇んだ。
そして、思わず近くの木の後ろに隠れた。
女生徒は茶髪で、その後ろ姿になんとなくザワリとした感覚を覚えたからだ。
(もしかして……あれが、マリエ?いやでも、今年の新入生という可能性もあるし……)
そんな事を考えていたら、突然後ろから声をかけられた。
「ルシエル!こんなところでどうしたの?」
「っ!あ、ジロー。いや、えっと……」
そう言い淀んだルシエルの視線をジローが追った。
「あぁ、あれは、噂のシンプソン嬢だね」
「噂?」
「あ、そっか。ルシエルは休んでいたから知らないかな?あの子は、庶民棟から編入してきたマリエ・シンプソン嬢だよ。どうやらシンプソン伯爵家の後継が急死されたとかで、平民から養子をとったらしいよ。伯爵の隠し子とかいう噂だけど……。あ、同じ三年生だよ」
そう、ジローはマリエの事をルシエルに話してくれた。
そして、学園での様子を。
マリエは貴族の階級やマナーにあまり詳しくないのか、誰彼構わず話しかけるという。
不敬だと怒る者もいたが、その明るさと人懐こさに好感を持つ人も少なくないとか。
編入して数日で、彼女の事を知らない者はいないほどだ。
その時、マリエの顔がこちらを向いた。
「あれが……」
ルシエルがポツリと呟いた。
遠目にも、可愛いと分かる顔立ちだ。
花壇の花を眺めながら微笑む様を見て、ゲームのマリーが花好きだった事をまじまじと実感した。
「可愛いからと、男子生徒の間では人気らしいけど……。あ、なんか、園芸部に入りたいとか言ってたって。昨日、ランバート先生がおっしゃっていたよ」
「えっ??……そ、それで?入部するの?」
ジローの言葉に、ルシエルは内心で大いに動揺した。
マリエが入部したら、たまったのもではない。
仲良くできる気はしないし、それ以前に彼女とは関わりたくなかったからだ。
ただし、ユーグ・ランバートのルートに入れば、彼女は園芸部に入ることとなる。
ゲームでは、の話だが。
「うん。実はね、先生からそれを聞かされた時に『どう思うか?』って聞かれて……。新入生が入らなかったら入ってもらうのはどうですか?って言っちゃった」
そう言って、ジローは「テヘッ」と舌を出した。
ちなみにジローは今年度から園芸部の部長になった。
「え?あ、そうなんだ。……なんか、珍しいね。ジローならOKするかと……」
誰にでも優しいジローにしては珍しいと思った。
さらに、マリエが攻略者の一人のユーグ・ランバートと会話をしていると聞いて、頭がチクリと痛んだ。
「はは……。ここだけの話だけど……なんか、苦手なんだよね。あぁいうグイグイ来る人。良く言えば人懐こいけど、悪く言えば遠慮がないというか……。僕、花とは静かに向き合いたいからさ」
ジローが人の悪口を言うのを初めて聞いたルシエルは驚きを隠せなかった。
元平民だから馬鹿にしているという訳ではなく、単純にマリエの人となりが苦手と言った感じだった。
(なんだろ。性格に難ありなのかな?)
よくよく考えれば、ゲームのマリーは不敬罪でいっぱいだ。
自分より身分の上の相手に自分から何度も会いに行って話しかける訳だから。
向こうに好意があればそうではないだろうが、そうやって何度も会いに行く間はまだ好感度は低い訳で、それは相手の迷惑でしかない。
(ゲームと現実の違い……か。マリー……マリエはどう動くんだろう?)
そんな事を考えながら、遠くのマリエを眺めていると、ふと、ゲーム開始時、攻略対象を選択する前にそれぞれのキャラと軽く接触があるのを思い出した。
(アルとマリエが出会うとしたら……いつ、どこでなんだろう……)
ゲームでは、その日時は示されていない。
が、編入してすぐの事だった、とルシエルは記憶している。
「こんなところで二人してどうした?」
突然のその声に、ルシエルとジローが振り返ると、そこにはアルフレッドが立っていた。
「アル、フレッド様!あ、えと……ジローと少し立ち話を」
マリエがいる中庭に、先程まで思い描いていた人物が登場して、ルシエルはショックを受けた。
(まさか……僕の目の前で、二人の出会いを見ることになったりして)
マリーとアルフレッドが出会って言葉を交わすのは、何がきっかけだったか。
思い出そうとしても、頭痛と焦燥感により、頭がうまく働かない。
「アルフレッド様、こんにちは。今日はどうされたのですか?」
「あぁ、ジロー君、そろそろコスモスが芽吹く頃かと思ってね。新色を植えたと聞いてね。……それにしてもルシエル、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「えっ?あ、あの……はい。大丈夫です」
ルシエルの目が泳ぐ。
「あ、ホントだ!ルシエル君、今日は帰りなよ。病み上がりなんだからさ。後は僕がやっとくから」
その時である。
「あっ。アルフレッド様!」
不意にかけられたその声に三人が振り返ると、一人の女生徒が近付いてくるのが見えた。
先程まで噂していた、茶髪の女生徒。
(!!マリエ……っ)
ルシエルは、地面がぐらりと揺れるような感覚を覚えた。
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