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ゲーム、進展? …3
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ルシエルとマリエが二度目の出会いを果たすのに、そう時間はかからなかった。
それは、ルシエルが王宮の中庭に向かっている時だ。
「あ!ルシエル様じゃないですか?こんにちは!」
中庭へ向かう道の途中で、ルシエルが名前を呼ばれて振り向くと、そこにいたのはマリエであった。
「!!……っ、シンプソン嬢。……ごきげんよう」
なんとか挨拶を返すと、マリエが隣に駆け寄って来た。
マリエの後方から、マリエの侍女らしき人が大きな荷物を抱えて走ってくるのが見える。
ちなみに、ルシエルの後ろには従事のジャックが付いていて、冷めた目をマリエに向けていた。
「ルシエル様はどうしてこちらに?」
「あ……あぁ、中庭に、ちょっと」
「お散歩、ですか?あ、ルシエル様のお父様は、財務省の長官をしていると聞きました!お父様に会いにですか?」
「いえ。まぁ、私用です。……ところで、シンプソン嬢は、こちらにはどういった用で?」
聞きながらルシエルは気付いた。
もしかしたら、ゲームが進展したのではないかと。
マリエがここにいるという事は、マリエが薔薇園を任されたという事ではないのかと。
その考えに至ったルシエルは、胸が苦しくなるのを感じた。
「実は、先日から、こちらの薔薇園を造るお手伝いをしているんです!」
(!!やっぱり……)
思っていた事を事実として突きつけられて心臓が抉られるような感覚を覚えたルシエルは、思わず胸の辺りを押さえた。
そんなルシエルの様子には気付かずマリエは話を続ける。
「私の実家が花屋なんですけど、それをアルフレッド様に話したら、ここの薔薇園の話になって……。で、ここの手伝いをしてくれないか?って、アルフレッド様に。うふふっ!あ、中庭だったら途中まで一緒ですね!薔薇園は中庭に隣接してるんです」
嬉しそうに話すその頬は赤く染まっており、明らかにアルフレッドに対して好意があるのだと伝えていた。
中庭に向けて歩き出したマリエに続いて、ルシエルも周りの目を気にして渋々歩き出した。
人が多いこの通りで、突っ立っている訳にはいかない。
「ところで、今日はミシェル様は?こちらにはルシエル様一人でいらっしゃったんですか?」
「……あぁ、そうだけど?」
アルフレッドの名前を出された時は頭が真っ白になったルシエルだったが、ミシェルの名前を出された途端に、冷静になっていくのを感じた。
幼い頃からずっと、ミシェルを守るために過ごしてきたのだ。
ここで対応を誤るわけにはいかない、と気を張る。
「そうなんですか。……ところで、ルシエル様はアルフレッド様とお話しされた事はありますか?……あっ、ありますよね?同じ園芸部ですものね!アルフレッド様って、優しいですよね!私のような者にも優しく接してくださって……それに、あんなにカッコいいし、声も素敵で……」
「……」
ルシエルはマリエの言葉に同意する事は出来なかった。
マリエの知っているアルフレッドと、自分の知っているアルフレッドは違うんだと思いたかった。
何より、モヤモヤとした表現し難い気持ちが浮かび上がってきていた。
「そうそう。初めてこちらの薔薇園に来た時も、何か不都合はないかと、様子を見に来てくれたんです!ふふふっ」
「……随分と、仲良く……しているようですね」
「えっ!いや、そんな!仲良くだなんてっ!うふふ!……でも、今日も来てくださるはずだし、これから仲良くなれたら良いなぁ、なんて。……あっ!今の事は誰にも言わないでくださいね!」
そう言って照れた風に笑うマリエは、他人から見たらとても可愛らしいのかも知れないが、ルシエルにとっては嫌味な笑顔にしか見えなかった。
「……っ、そう。……では、僕はこちらなので……」
「あ、はい!また!」
(できればもう会いたくないよ)とルシエルは心の中で毒を吐きながら足早にその場を離れた。
マリエはもうゲームで言えば中盤に差し掛かったようだ。
薔薇園を任されるのは、好感度は関係ない。
時期が来ればそのようになるストーリーだ。
だから、アルフレッドルートに入ったのなら自然な流れなのだが、だからこそゲームと同じようにマリエがここに来た事に、ルシエルは頭を悩ませた。
(やっぱり、この世界はゲームの通りに進行するのか?)
そして思うのは、ミシェルの事だ。
ミシェルはどうなる?ミシェルはどう動く?
(どうすれば、ミシェルを救える?)
そんな事を考えていると、いつの間にかすぐそばまで来ていたジャックが、ルシエルに愚痴をこぼし始めた。
「何ですか?今のご令嬢は?シンプソン嬢と呼ばれていましたが……シンプソン伯爵の所に養子に来られたと言うのがあの方ですか?」
「え?あぁ、うん。そう」
ルシエルが後ろを振り向くと、ジャックは明らかに機嫌の悪そうな顔をしていた。
「全く躾がなっておりませんね?シンプソン伯爵はちゃんとあのご令嬢を教育されておられるのでしょうか?ルシエル様に向かってあの態度!何度注意しようと思った事か」
怒りを露わにするジャックを見て、ルシエルは逆に気持ちが落ち着いていくのを感じた。
「それに、アルフレッド様、アルフレッド様……と!失礼の度を越しています!身の程知らずにも程がありますよ!大して可愛くもないくせに、何を勘違いされているのか」
「えっ?」
一般的には間違いなくマリエは可愛い顔をしている。
それを簡単に『可愛くない』と言ったジャックに、ルシエルは驚いた。
と同時に、自分が言えない愚痴をこうして表に出して言ってくれた事を、とても嬉しく思った。
「ふふっ。ありがとう。僕の代わりに怒ってくれて」
「あ……っ。申し訳ありません。取り乱してしまいました。とにかく、我慢できずに……」
「ううん。いいよ。ホント……ありがと」
そう言ってはにかんだルシエルを見て、ジャックは微笑みを返した。
「あんな女の言葉なんて聞かないでくださいね?アルフレッド殿下があのような小者を相手にするとは思えません。なにより我らがルシエル様の方が可愛らしく天使のようなのですから」
「てんっ?……いや、もう、やめてよ……」
「天使に天使と言って何が悪いのです?」
「いや……あー……」
ルーズベルト家の従事達が自分やミシェルを甘やかしているのは知っているが、改めてその甘さが砂糖以上だと悩まされるルシエルであった。
と同時に、この場にジャックがいてくれた事を心から感謝した。
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