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10. many years ago
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先ほどの音は簡易トイレの裏側から聞こえてくるようだった。
雑草を踏み倒し徐々にその場所へと近づく。
陰からそおっと覗くと、そこには自分と同じくらいだと思われるしゃがんでいる男の子が1人と、その子を取り囲むように立つ少し年上だと思われる男の子が3人いた。
しゃがむ男の子の肌は数箇所赤く腫れ、痣になっているところもあるようだった。上級生たちは興奮した様子ではぁはぁと息を切らしながらそんな男の子を睨みつけていた。
聡い子であった奏汰は、その状況が何であるか理解してしまった。
恐らく、あの男の子を救い出すのが猫から課せられたミッションだ。
どう助けよう、と少し作戦を練っていると、何かに気づいた。
よく見るとしゃがんでいる男の子の腕の中のものが何かモゾモゾと動き、黒いふわふわの毛並みと三角の耳が見えた。
──黒猫だ。
それがわかった瞬間、奏汰は思わず飛び出してしまっていた。
8つの目が一斉にこちらに向く。
──しまった。
出てきてから後悔したが、体が勝手に動いたのだ。仕方ない。そう結論づけた奏汰はゆっくり近づき、男の子の側にしゃがみこみ、安心させるように話しかけた。
「ねえ、きみ、今のうちににげなよ」
男の子はゆっくり顔を上げ、涙を溜めた瞳を一瞬見開くと、こくん、と頷き 黒猫と共に走り去っていった。
「おい、なんだお前!」
男の子のことを見届けていると、背後から声がかかった。無駄に大きな声。耳障りだ。
「うるさいな。もう少しボリュームをおさえてくれないか。」
言いながらおもむろに立ち上がり、上級生を睨む。
大方、上級生たちが黒猫を虐めていたところをあの男の子が止めようとして、逆にその対象になってしまったのだろう。
男の子を虐めたこともだが、最も許し難いのは動物を虐めたことだ。そんな奴らに慈悲は必要ない。
奏汰は温厚で優しい子だったが、代わりに怒ると容赦なかった。
「なっ…なんだお前!」
「うるさいと言っている。」
「っ…!…うるさいうるさい!…はっ、見てみろよ、こいつ!へんなあたまにへんな目!」
「ははは!ほんとだ!」
「へんなやつ!」
言葉につまったリーダー格の上級生が、奏汰の生まれつきのグレーヘアと蒼い目を指摘し始めた。
返しに詰まると途端に分かりやすく相手のことを馬鹿にし始める。つくづく安直な奴らだ。普通と違って何が悪い。
ゲラゲラと笑う3人を冷たい目で見つめる。何が面白いのだろうか。
ジッと見つめていると、1人が奏汰の視線に気づいた。
「はは、は……っ、なんだよその目…」
「っ…やっちゃえ!」
リーダー格の1人の言葉で周りの2人が殴りかかってくる。
言葉に屈しないことが分かると今度は暴力に訴えてくる。やるならもう少し楽しませてほしいものだ。
「どうぶつをいじめた上にかきゅうせいにまで手を出すとはな。ざんねんなやつらだ。」
言いながら拳を躱し、伸びてきた手首を掴み強めに捻る。ギリギリと捻りあげパッと手を離すと、2人は顔を歪めしゃがみ込み、口々に痛いと喚いた。足元に蹲る2人を冷たく見下ろした後、目の前の1人にすっと視線をずらす。
するとリーダー格の上級生は、ガタガタと震えつつもキッとこちらを睨み声を荒らげた。
「なっ、何したんだよ…!こんなことしたらいけないんだぞ!」
仲間の惨状に怯えてはいるもののキャンキャンと喚き散らす、その根気だけは認めてやる。
「よく言う。おまえたちがしたこととおなじことをしたまでだ。むしろてかげんしてやったんだからかんしゃにあたいするとおもうがな。」
言いながら上級生に近づき、腕に手を伸ばす。
「っ…何言ってるかわかんねえよ!なんだよその手!」
「おまえもおなじ目に合わせてやろうとおもってな。人にしたことはいつかかならずじぶんにかえってくる。いんがおうほうだ。よくおぼえておけ。」
さっきからうるさいと言っているのにも関わらず態度を改める気配がないので、こいつにはもう少し痛い目を見せてやる。
腕を捻るのに加え、反対の肘のツボを親指で押し込む。
「っ…!いたいいたいいたいいたい!やめろ!」
「もうこんなことはしないとちかえ。」
更に力を込める。
「はなせって!ひっ、い、うぅ…!」
「もうどうぶつや人をいじめません。はい」
「や、っ…もうっ…どうぶつや、ひとをっ、いじめません…っ!はなしてっうぅ…ママぁ…」
そんなに痛かっただろうか。泣き崩れるそいつに少しだけやり過ぎたかもしれないと1ミクロンほど反省する。しかし痛い目を見せておかないと、こういうのは勘違いしてのさばる。だからその芽を摘み取ってやっただけだ。後悔はしていない。
このままだと逆襲に来かねないので、しっかりとそれらしい理由を作り上げ教えてやる。
「ねえ、いたかったよね。」
「ぐすっ…う、ん…」
「すごくいやだったよね。きみが今までしていたことだよ。…こんなことをしていたらきみのだいすきなママに、どうおもわれるかな?」
「やだぁ…きらわれちゃうぅ…」
「うん、そうだね。もうしないって言ったもんね、これからあらためたらきっとママも、ほかの子もゆるしてくれるよ。」
「うん゛…っ」
「はい、おうちへおかえり。…きみたちもね」
「っ…はい…」
「はい…」
そうして泣きながら、ごめんなさい、ばいばい、と手を振って去っていった3人を見送り、奏汰はふうと息を吐いた。
──奏汰、5歳である。
さて、と、白猫に約束を果たしてもらおうと立ち上がりトイレの陰から出た奏汰は、そこで蹲る物体を発見した。
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