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「「どっちだ!」」
「…こっちが栞、こっちが澪」
ぐるぐる回って、当てて。回って、当てて。それをもう何回繰り返しただろうか。
そろそろ僕まで目が回りそうだ。
「はぁ………」
「もう1回!」
「…兄さん、僕もう疲れたよ…」
「ぅ…次で最後だから!」
「うん…」
さっきから、このやり取りも何回繰り返したことか。
なんでそんなにこだわるかなぁ…。もうやめていいかな。ここまで付き合ったし、いいよね。
「「どーっちだ!」」
同じ顔で、でも確かに違う顔で僕を見る2人。
間違えないように、慎重に指を差し出す。
「…こっちが澪、こっちが栞」
わざと間違えた。わからないって言っても、無理にでも選ばされる気がしたし。
さぁ、終わってくれ。
僕が栞だと言った澪の顔が、嬉しそうに歪む。
「ふふ…ぶっぶー!残念でした!やっぱり、相当運がいいだけの当てずっぽうだったんだね!」
「そうだね、兄さん」
同じ顔をしてハイタッチする澪と栞。澪が満面な笑みを浮かべてるのに対し、栞だけはチラとこちらを見て形容しがたい顔をしていたけど。
「澪、栞。行きますよ」
黒い塊の説得を終えたのか、怜が2人の後ろから声をかける。
僕と同じで、生徒会メンバーもそろそろ退屈に我慢ならなくなったのだろう。
黒い塊はそれでも、まだ納得できてないのか不服そうにこちらを見てきていたが、面倒なので気付かないふりをしておいた。
嵐のように去っていった生徒会メンバーに、ようやく続きが食べられる、と体の向きを直した刹那、
ギュウ
「っ、?」
後ろから誰かに抱きしめられた。
僕が1番困惑してるけど、目の前の2人も口をあんぐり開けて固まってる。
いや、誰だよ。
とりあえず離れさせようとそいつの腕を掴む。が、力を込めてもピクリともしない。
馬鹿力かよ。
「…離れて」
物理がダメなら、と直接訴えてみる。と、案外あっさり離れていった。
一体誰なんだ、と再び後ろを振り向くと、やたら背の高いイケメンがいた。
「…誰?」
「……のき、…」
にしても、上向くの首が痛いな。
「ねぇ、首疲れるんだけど」
「あ………う、ん…」
おずおずと僕の隣に腰掛けると、そいつは改めて口を開いた。
「……く、のき……ゆ、ひ……しょき」
「…くすのきゆうひ、書記。あってる?」
緊張した様子でにこくん、と頷くくすのきに漢字を尋ねると、テーブルの上のナプキンを1枚とって、ボールペンで名前を書き出した。
"楠 優翔"
さらさらと書かれたそれは意外にもしっかりした字で、少しばかり驚いた。態度はまぁ…あれだけど、芯はなくはないのだろう。
「…なんだ、ちゃんと、できるんじゃん」
「……え?」
「…いや。もう少し、はっきり発声してみたらいいんじゃない。折角、綺麗な声してるんだし」
その態度のせいで、きっと様々な誤解を生んできたのだろう。それでさらに縮こまって、また誤解を生んで、その繰り返し。多分、そう。なら、原因から変えるべき。
なんてこと思ったけど、僕がこいつを救ってあげなきゃ、なんて使命感なんてこれっぽっちもない。思ったことを言っただけだ。何より聞き取りづらい。
楠の声は耳に馴染んで、聴き心地がいい。だから、ちゃんと聞かせて欲しかっただけ。
「!!……うん、っ…おれ、がんばる」
確かに聞こえたその声に、ふ、と頬が緩む。
うん、頑張れ。とつい手が出て頭を撫でると、楠はさっと頬を朱に染めて、目を見開いて、かと思うとまた抱きついてきた。
…若干疲れた顔で、さっきから会話に参加してこない2人の方を向くと、音がキラキラした目で鼻を抑えてた。
そんな音に触れるか触れまいか、僕の中の全票が触れないに入ったところで、楠の力がさらに強まった。
ちょっと、馬鹿力、首が締まる。
「…楠、痛い。」
「…ぁっ、ごめんな、さ…」
ばっと離れた楠は少し怯えているように見える。
赤くなったと思ったら今度は青くなって、忙しい奴。
涙目でふるふる震えて許しを乞う楠を、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「…別に怒らない。そんなに怯えなくていい」
なるべく怖がらせないよう、優しく、柔らかく。
明らかにほっとした様子の楠の頭を撫でてやると、すり、と手に頭を擦り付けてきた。
…なんか、
「…ペットみたい、だな」
「……!!…なるっ、!奏汰くん、おれの、ご主人様…」
口をついて出た言葉に あ、と思ったのもつかの間、楠に両手を握られる。
「あー……っと…ごめん、楠、違くて…」
「…違うの?ダメ、なの?」
う………一度可愛いと思ってしまうともうダメだ。僕は可愛いものには弱い。
「いや…まぁ、…楠がなりたいなら構わないけど…」
「…なる。して…」
どこか不安気に僕を見つめる2つの瞳が何か懇願しているようで、僕にはそれが"捨てないで"と言ってるように見えてしまった。
「…ん」
途端ふわりと笑った楠の後ろにぶんぶん振れる尻尾すら見えそうで、多少残っていた困惑もどこかへ消えてなくなった。
こうなったら目いっぱい可愛がってやる。
…手始めに、
「…ユウ。これからそう呼ぶ」
「っ……うん、!」
突き刺さる視線が痛いけど、ユウが可愛いので許さんこともない。
そんなこんなでペットができました。
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