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ーーーガラリ、
教室のドアを開ける。
すると、やっぱり僕に集まる視線。
前髪がないと、ダイレクトに感じてしまうそれらは、すこし、こわい。
けれど、ふと目の前に、影ができた。
「はーーい、終わり。そんなに見んなって。綺羅がこまっちゃうだろ」
それは、視線から守るように、ぼくの前に立ってくれた、くろさきくんだった。
「…!そうだな、わるい」
「だね、ごめん、気をつける」
くろさきくんの一言で、あっさりと外れて行く視線。
……すごいなぁ。
お礼が言いたくて、くろさきくんの背中をつんつんつつく。
「ん?どうした?」
優しく笑顔でこちらを向いたくろさきくんの手をつかむ。
『ありがとう』
手のひらに、指でそう書いた。
くろさきくんは目をぱちぱちさせてから。
『どういたしまして。あと、おかえり』
僕のてのひらに、そう書いて、穏やかに笑った。
花が咲いたような、華やかで、あたたかい笑顔。
それを見て、ズキリと、罪悪感で胸が痛んだ。
せっかくのくろさきくん達の好意に、"疲れた"なんて思ってしまったこと。
くろさきくんに抱きしめられて、嫌だと思ってしまったこと。
……すこし、教室に帰るのが、憂鬱だって、そう思っていたこと。
ぜんぶ、ぜんぶ申し訳なくて、目を合わせられない。
謝らなきゃ。って、そう思ったのに。
「……あのさ、綺羅。ごめんな」
謝ったのは、なぜか、くろさきくんだった。
「…………?」
どうして、くろさきくんがあやまるの?
「今日は、いきなり騒がしくしすぎたかなって、反省してたんだ。俺たち勝手に盛り上がっちゃってさ。綺羅のこと、ちゃんと考えてなかったよな…。疲れちゃったんじゃないかなって思ってて…」
そういって、しゅんと俯く、くろさきくん。
そのことばに、じん、と胸が暖かくなった。
潤んでくる視界に、ぐっと歯を食いしばって耐える。
……ぼく、最近泣いてばっかりだなぁ。
先生も、くろさきくん達も。
どうしてこんなに、僕なんかに優しくしてくれるんだろう。
……"ふつう"じゃない、"マチガイ"な、ぼくなのに。
「でもさ、次からは気をつける。
……だからさ、もし、よかったら、俺と、俺たちと、友達になってくれない?」
……どうしてそんなに、優しい言葉ばっかりくれるの。
「俺たち、本当に、綺羅と仲良くなりたいんだ」
『…ぼくなんかで、いいの?』
声には、ならない問いかけ。
けれど、それを、彼は確かに読み取って。
「ちがうよ。綺羅"が"いいんだよ。……だめ?」
そう、いってくれた。
ほんとうに、信じられないほどに、優しいことば。
何度もなんども、首を振る。
……だめ、なわけがない。
『よろしく、お願いします』
そういうと、くろさきくんは、やっぱり花が咲いたみたいに、嬉しそうに笑った。
……なんか、恥ずかしい…。
なんとも言えない空気がながれて。
だけど。
「おい!!黒崎!!もう我慢ならん!!何でお前ばっか!!!」
「抜け駆けはずるい!!!私たちだって同じ気持ちなのに!!」
「さっきは本当にごめん!でも、俺らも仲良くなりたい!!」
盛大なざわめきが、その気まずさすら吹き飛ばす。
一気にとんでくる、言葉と視線。
まだ、すこし体は強張ってしまうけれど。
……さっきほどは、怖くはなくて。
「だから、"俺たちと"って言ってやっただろ!
てか、もうちょっと落ち着けって。
もー!!お前ら、反省してないだろ……」
その言葉に、ぴしり、教室の空気がかたまって。
「あ、あぁぁ…ごめん、つい」
「一気にまくしたてられたら、怖いよね」
皆の声は、小さくなって。
視線は、どこをみたらいいのか探るように、うろうろと教室の中をさまよう。
……なに、それ。
あんまりにも皆があわてるから、ぼくはすこしだけ、笑ってしまった。
……笑ったら、失礼だったかな。
「「「き、きらが……!わらった………!」」」
途端に、また、目線が集中して。
「だから、お前らはもう………!」
同じことの繰り返しに、なんだかもっと笑えてくる。
ちょうどそのとき。
「いや〜、青春だなぁ……。先生、羨ましいよ。けどさ、皆、そろそろ座らない?授業、はじまってるんだよね……」
すこしだけ寂しそうな、社会の先生の声が聞こえて。
時計を見ると。
「「「あ……」」」
すでに、授業が始まって、5分がたっていたのだった。
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