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22.(side.黒崎)
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ーーーあれから。
「お前、何体育さぼってんだよ!先生めっちゃ怒ってたぜ」
「いや〜ごめん、腹痛がやばくてさ」
「まじか、大丈夫か?ってか、うつすなよ?」
「もう手遅れかも………」
「おいっ!」
そんな風に、いつも通り会話して、笑って。
ーーーーだけど、目が、どうしても、綺羅を見てしまう。
いつも通り、何も変わらない綺羅。
丸まった背中。
表情を覆い隠す前髪。
固く結ばれたままの唇。
どこも、変わらない。
それはそうだ。
だって綺羅は、俺が見ていたことを知らない。
気まずくて、モヤモヤするこの気持ちをどうしていいのか、わからない。
ただわかるのは、"とんでもないこと"を知ってしまった、ということだけ。
……どうしたら、いいんだろう。
ーーー助けをもとめる?
本人に頼まれたわけでもないのに?
助けを求められてからでは遅いのでは?
いや、そもそも綺羅が俺に助けなんて、求めるわけがない。
そもそも、俺のこと、把握してるのかすら疑わしい。
それに、相談するにしたって、誰に?
教師?
警察?
余計に事態がこじれるだけ?
そもそも、本当に虐待なのかもわからない。
ーーーーーなんて。
フッと、自嘲の笑みが零れた。
あの怪我が、自分で作れるようなものでないことなんて、わかりきったことなのに。
このごに及んで、言い訳がましい。
どんなに、親身になったつもりだって、
どんなに、可哀想だと思ったって。
………俺は、きっと何もできない。なにも、しない。
だって、所詮は、興味本位。
そんなに、深く関わる予定も、意思も、ない。
俺には、荷が重すぎたんだ。
そう、思うのに。
未だに綺羅を捉えて離さない、視線。
ーーーーー俺は、何がしたいんだろう。
わからない。
……あたまが、ぐるぐるする。
「はぁーーー。黒崎、お前、綺羅のこと見すぎ」
「はっ?!あ、あぁ、ごめん」
「いや、どちらかといえば綺羅に謝るべきじゃね?
…しっかしお前、本当に綺羅好きなのな」
「はぁ?」
思ってもみないことば。
「毎日毎日熱心に話しかけてさ。挙げ句の果てには熱視線。熱狂的なファンとしか思えねぇよ」
まぁ、なんか独特の雰囲気あるし、わからんではないけど、そう言って綺羅の方を見遣る。
「…べつに、俺は、綺羅と話してみたいだけなんだけど…」
そう、それだけ。そのはずだ。
「ふぅん……。まぁ、好きにしたらいいけどさ。ほどほどにな」
そういうと、肩にポンと手を置いて、自分の席に帰っていってしまった。
しばらく、呆然と立ち尽くす。
ーーーわからない。
自分が、何をしたいのか。
自分が、何を感じているのか。
何もわからない俺にできたのは。
「なぁ、綺羅〜」
「………」
気まずく、脈打つ心臓を抑えながら"いつもどおり"を貫くことだけ。
俺も、綺羅も。
表面上、なにも変わらない。
変わったのは、おれの気持ちだけ。
それは、夏が終わって、秋が来ても、冬が来ても、変わらなかった。
……だから、きっとこのまま。
一年も終わって、それでも"このまま"が続いていくと思っていたのに。
ーーーー鮮烈な翠。
暴力的なほどに、うつくしい、かお。
……まっすぐな、瞳。
ーーーーーー変化は、唐突に訪れた。
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