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1.How to fawn(リクエスト)
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最悪だ。
何が最悪かというと、洗濯機が動かなくなってしまったことだ。もう日が暮れているし、少なくとも今日中に修理はできないだろう。しかし今日こそはこの溜まった洗濯物を洗わなければならない。
洗濯カゴと睨み合いをしていると、後ろの方から声が降ってくる。
「どうしたの、勇也」
「洗濯機壊れた…」
「嘘…あーほんとだ、買い換えなきゃ」
「めんどくせえけど手洗いするか…」
「え?!この量を…?いいじゃん、明日修理か買い換えすれば…」
「そうやってどんどん洗濯物が溜まっていくんだよ!」
元はと言えばこいつのせいだ。すぐに服を着替えるし、着たかったものが洗濯されていないと文句を言う。
「じゃあ俺がやるよ」
「お前にできるわけないだろ」
「なんでよ、たまには甘えていいんだよ?」
「意味わかんねえし…あ!おい、それ漂白剤!!…もういい、お前はリビングで大人しくしてろ」
「ええ…でも勇也はこれから全部やるんでしょ?」
「だからそれまで待ってろ…先に寝たらぶっ殺すからな」
自分が働いている間に寝られるのも癪なので、ハルには大人しくリビングにいさせることにした。ハルはしゅんとしてリビングにドボドボと歩いていく。ハルがいなくなったのを確かめて、ため息をついた。
「知らねえよ、甘え方なんて…」
今まで誰かに甘えたり頼ったりすることはあまりなかった。どちらかと言うと頼られる方が自分でも好きだし合っていたのだと思う。甘えていいと言われても、肝心の甘え方が分からない。どんなときに、どうやって甘えればいいのだろうか。甘えたいとも思ったことがないのに。
………………
2時間ほど経って、ようやく洗い物を干すまで済ませた。洗濯機が使えないと脱水機能も乾燥機能も使えないので、タオル類を絞るのだけでも一苦労だ。もう22時になるが、ハルはまだ起きているだろうか。
リビングに行くと、ハルはソファに体育座りしてテレビを眺めていた。さっきは少しきつく当たってしまったから拗ねているかもしれない。
何故だかその寂しげな背中が愛おしく感ぜられた。
俺自身もう疲れきっていて何もする気が起きない。こんなときこそ、ハルに甘えるべきなのだろうか。
ソファに歩み寄って、ハルの隣に腰掛ける。
「あれ…終わったの?こんなに時間かかったんだね、やっぱり手伝えばよかった…」
黙ったまま首を横に振る。そして、ハルの肩に頭を載せた。何となくこうしたい気分になっていたから。もしかしたらこれが甘えたいという気持ちなのかもしれない。
「勇也…?疲れたの?頑張ったね。無理させてごめんね」
よしよしと言いながら頭を撫でられる。いつもならやめろと返してその手を叩くのだが、今日は俺がそれを受け入れているからかハルもきょとんとしている。
「やけに静かだね…?もしかして怒ってる?」
否定をしたかったがするのも面倒だったので、何も言わずにハルの肩に擦り寄った。甘えるとは具体的にどうすればいいのか分からない。言葉にするのは小っ恥ずかしいし、かと言ってこの先何をしたらいいのかも不明だ。
「怒ってない?あれ、怒ってんのかな…眠いの?ベッド運んであげようか…」
ハルが俺を運ぼうと立ち上がる。そういう事じゃないと言いたくて腕を掴む。近くにあったリモコンを手に取ってテレビの電源をオフにした。
「勇也…?」
座れという意味を込めてハルの腕をぐいぐい引っ張る。困惑しながらもハルは俺に向き合ってソファに座った。
自らハルに抱きしめて欲しいなんてことは決して言えない。キャラじゃないし、そんなことを言う勇気もない。ハルの胸に、額をこつんと当てて体重を預けた。
「やっぱり、眠い…?」
違う。そうじゃない。
もどかしくて、ハルの腕を無理矢理掴んで自分の体を包み込むように動かした。
「…もしかして、甘えようとしてくれてる?」
少し自分の顔が熱くなったのが分かる。ハルはそのまま、優しく俺の体を抱きしめた。頭を撫でる手が心地いい。
「いつもありがとう。俺、なんの役にもたてないけど、これからちゃんと覚えるから…一人で全部やろうとしないで」
「ん……」
「甘え下手なのは分かるけど、たまにはこうやって甘えていいんだよ。なにかして欲しいことある?」
ハルも何故か嬉しそうだ。よほど頼られたかったのかもしれない。なにかして欲しいことと言われてもすぐには思いつかないし、他人に何かをやらせるのはあまり慣れないから戸惑う。
「何でもいいよ、勇也の気が済むまで甘やかしてあげる。なんか食べる?それともずっとこうしてようか?」
「なんでも…?」
何でもと言われるとさらに困る。でも今は疲れていて考えるのも億劫だし、何かを食べたりする気分でもない。
このとき俺は酷く疲れていたから、考えなしにぱっと頭に浮かんだことを行動に移してしまった。
一度ハルの胸から顔を離して、顔を上げてハルの方に近づける。ハルは首を傾げた。
「ん?どうした…の…」
ハルの目の前に顔を持っていって、そのまま目を閉じた。
「っ〜して欲しいことって…そういう…」
ハルがそう言って何か悶えているので、間違ってしまったのかと思い急に恥ずかしくなって目を開けると、その瞬間短く音を立てて啄むようなキスをされた。
「キスくらい、いつだってするのに」
ハルはニコニコと微笑む。愛おしそうに俺を見つめて、髪の毛の生え際をなぞるように撫でた。
「…もう一回」
「え?」
「もう一回しろって…言ってんだよ」
正直少しヤケになっていた。俺がハルにして欲しいことと言えば、これくらいしか思いつかなかったのだからしょうがない。
「ああもう…なんで今日はそんなに可愛いの?勇也が望むなら、何回だってするよ」
また短いキスをして、唇を舐められる。ハルの着ている服の裾をぎゅっと引っ張ると、唇をなぞっていた舌が口内に入ってきた。
互いに舌を絡めあって、引かれた糸はもうどちらのものなのかも分からない。いつも以上にゆっくりと、深く深くキスを交わした。
いつの間にかソファに押し倒され、ハルが俺の上に覆いかぶさっていた。
「勇也…ねえ、したくなっちゃったんだけど」
「…それは無理」
「…まぁ、疲れてるもんね」
「でも…今日は、お前のベッドで寝る」
「…わかった。ベッドの中でも甘やかしてあげる」
「変なことしたらすぐに出てくからな」
「う〜ん頑張る」
ハルが立ち上がって行こうとするので、「おい」と呼び止める。
「え、なに?まだ何か…」
ソファに寝転がったまま、ハルの方に向けて両手を伸ばす。
「ん…」
恥ずかしいのでハルの顔を見ることは出来ないが、これが俺の精一杯の甘え方だった。
ハルは察しがついたのか、長くため息のように息を吐く。
「…好きだよ」
そう聞こえて、ハルに手を引かれ抱き上げられる。ハルの部屋に入って、二人ベッドに潜った。
疲れからかすぐに眠気が訪れ、ハルに撫でられながら、腕の中で眠りについた。
翌朝、夜のことを思い出して羞恥心で死んでしまいそうになったのは言うまでもない。
___________________
リクエスト:甘える勇也 より
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