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悪夢
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「たすけ‥‥助けて‥‥はぁ‥は‥‥!」
出口の見えない階段をひたすらに降り続ける。
「助けて‥助けて‥!」
息が上がって酸素が吸えなくなっても駆け下り続けるしかなくて泣いている余裕もない。
「はぁ‥はぁ‥!」
やっと光が見えてきたような気がして手を伸ばした。
出口が見えたときに感じたのは、ーー喜びと絶望ーーだった。
ガバッと起き上がると、ここは寮の自分の部屋で時計を見ると真夜中だった。
そうだ、俺‥。皆川さんに送ってもらったあと、シャワーを浴びてすぐに寝たんだ‥。
気分を変えたくてキッチンに行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを出す。
料理は全くしないからほとんど食材は入っていない。
ゴクゴクと飲むと汗をかいて火照った身体が冷えていくのが分かる。
この悪夢を見るのは初めてでは無い。それどころか十年間、悪夢を見ない日のほうが少なかったかもしれない。真夜中に起きることもしばしばで一度起きるとなかなか寝付けない。
学生時代はよく一限に遅刻した。就職してからは遅刻など許されるわけもなく特に早番の日が起床するのに苦労するし寝不足になってしまう。
寮の立地がホテルマルキーズから徒歩十分程なことが救いだ。
どうにかまた寝付こうと努めるけれど、目を閉じると頭の中に浮かんでくるのはまたあの悪夢とおなじ光景で気分が悪くなる。
「こんなんで誰かと付き合えたりする訳ないんだよっ‥!くそっ‥!」
ガンッと拳で叩いたヘッドボードがぐわんと揺れる。
「はぁ‥はぁ‥‥。」
興奮して息が上がるのを必死で堪えようと深い呼吸を繰り返し、また目を瞑った。
ずっと自分の殻に閉じ籠って生きてきたこの十年、それで良いと自分に言い聞かせてきた。だから今後皆川さんが、隆之が他人との間に引いた境界線に構わずアプローチして来るのではないかと不安で仕方なかった。
「一人にしておいて欲しい‥。」
ポツリとそう呟き、もう痛むはずのない左肩の古傷を静かに撫でた。
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