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チワワとトイプー
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結局寝不足のまま出勤することになったけれどそれも隆之にとっては良くあることなのでいつものように買い溜めしてある寝不足解消のための栄養ドリンクをゴクゴクと飲み干した。朝から飲むものではないが、これが朝ごはん代わりなので欠かせないのだ。
「南條くん、おはよう。」
「おはよー。ねぇ今日はちゃんと寝てきた〜?クマ出来てない〜?」
南條くんがあまりに至近距離に寄って来るものだからつい一歩下がってしまう。
こう、なんて言うかチワワみたいに誰にでも懐く可愛い後輩なのだけど人との距離が物理的にも精神的にも近いのだ。
「大丈夫だから。ほらほら、ドアマンは外に出てなよ。今日、寒いから気をつけてね。使い捨てカイロ持ってる?ないの?駄目だよ、フロントに常備してあるの一個貰ってきてあげるよ。」
「はぁー、ツンデレ。それが最高だけど長谷川ちゃんそういうの罪だかんね!」
何のことを言っているのかさっぱり分からないけど‥。
フロントに行くと今年大学を出たばかりの新人フロント係の美里(みさと)ちゃんがいた。
「美里ちゃん、南條くんに使い捨てカイロ渡したいから一つくれる?」
「いいですよっ。それよりそれより!長谷川さんっ!昨日誰かが見たって話してましたけどっ、オーナーとどちらに行ったんですかぁー?」
フロントから身を乗り出して聞いて来る美里ちゃんは興味津々な様子で目をキラキラとさせている。クリクリした印象的な目と大きめにカールした髪がトイプードルを連想させて、うちの後輩たちは‥と苦笑する。
「会食のお付き合いだよ。商談上手くまとまったみたい。」
「へぇ〜!それに同席できるなんてさすが長谷川さんですねぇ!いいなぁ!美里もいつかお誘いして貰えるかなぁ?オーナーってめちゃくちゃ格好良いじゃないですかっ!」
終始興奮しきりの美里ちゃんに適当な返事を返して、南條くんの元へ行く。
「はい、南條くん。」
「ありがとーございます!美里ちゃん何て?俺のこと格好良いって話ですか?」
「あーもうこの子たちは‥。ほらほら、仕事して!」
今日も自由な後輩たちに頭痛がするものの、コンシェルジュのデスクに戻って座った。
今日は関西からの修学旅行で団体の予約が入っていた。
不味いな‥。常連で騒がしいのが苦手なお客様の予定も入っている。
ホテルマルキーズには、近隣の観光目的に来てただ宿泊される方だけではなくて、非日常を求めてわざわざホテル目当てで宿泊する人も多数いる。
レストランもフレンチキュイジーヌ、鉄板焼き、中華、ラウンジのカフェ、夜景の見えるバーとたくさん入っていてどの店も自信を持って料理を提供できるし、ホテルには素晴らしいスパもあるので常連客になってくれる方が後を絶たないのだ。
それにお客様の優劣をつける訳ではないがホテルとしては常連客になってくれる方がとても大切だった。業界で生き残って行く為には信頼してくれるその常連客だ。そして口コミが必要だ。今時インターネットで調べたら何でも分かるけれど、常連客からの生の声で広がる口コミほど信用度が高いものはないのだから。
隆之の見ているパソコンを横からひょいと牧谷さんが覗き込んで来る。
「あぁ、難しい顔をしていると思ったら東海林(しょうじ)様がいらっしゃるんだね。」
牧谷さんが軽く腕組みをして思案したあと、ぱっと閃いたように明るい表情になる。
「そうだ。今日はバーでピアノとバイオリンのアンサンブルのミニコンサートがあるじゃないか。こちらにお誘いしてみたら?音楽はお好きだったよ。それにきっと煩い、おっと失礼。賑やかな学生さんたちがロビーやレストランにいる時間に食事に降りて来られないタイミングだから、鉢合わせしないと思うよ。」
牧谷さんが神に見えて来る‥。コンシェルジュ歴の長い牧谷さんはいつも隆之の目標であったし父親のようにも感じていた。
「勿論、学生の方々もお若い時間を大いに楽しんで頂きたいね。さぁ、いらしたよ。お出迎えだ。」
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