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デッサンモデル
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トン、トン、トン。
終業後ではあるがこれも仕事のうちという認識を持って伺うのだからと制服のままで東海林様のジュニアスイートを訪ねた。
「いらっしゃい。入って。」
東海林様は既にシャワーを浴びていたのかリラックスしたおそらくご持参されたホームウェアにホテルの備え付けのガウンを羽織っていた。
「さすがだね。呼び鈴もあるのにノックだなんて。俺が絵に集中してるだろうという配慮?」
「そうですが‥そのようにお褒め頂く程ではありません。」
広く長い廊下を通り、東海林様がリビングに置かれたゆったりとしたソファーへ腰掛けるように促してくれる。
「失礼します‥。」
「ノックもゆっくりと三回してくれた。よく分かってるよね。二回だとトイレノックなんだよね。すごい細かいことだけどいつもホテルへ泊まると気になっちゃって。ホテルマルキーズの好きなところはこの部屋だけじゃなくてスタッフの質なんだ。バーのミニコンサートも最高だったよ。俺の一番好きなベートーベンが聞けて気分が良いよ。」
「今日はベートーベンだったんですね。もしかしてソナタ第五番ですか?」
東海林様がデッサンの支度をしようとスケッチブックを取り出していた手が止まった。
「長谷川くん、音楽分かるの?」
「いえ、そこまでは‥楽器は弾けませんし。聞くのが少し好きなだけです。俺はリストが好き、ですかね。ラカンパネラとか。はは、音楽好きと言うには定番かな?」
微笑んだ東海林様が使い古した鉛筆を紙の上に滑らせた。
「良い趣味だね。俺はね、普段は風景画しか描かないんだ。でも風景も物も人も美しいものが好きなんだよ。美しいものを美しいと思える心がこの世の中で一番素晴らしいものだと信じているからね。長谷川くん、絵画への興味は?」
「すみません‥現代美術はあまり詳しくなくて‥、ハワイ出身のラッ◯ンの個展は見に行ったことがあるのですが‥。」
「悔しいな、今度俺の個展にも来てよ。ご招待するから。君は本当に美しいよ。容姿端麗だ、けど君の知的でどこか影のある部分が美しさを増している。」
もう少し横を向いて、と指示を出され目が合わなくて済む体勢でホッとする。東海林様にそんな風に褒められて落ち着かなかったからだ。
でも良かった、南條くんが下心があるんじゃなんて言ってたから不安だったけど、全然そんなことなかった。褒められすぎて恐縮してしまうけど、東海林様は純粋にデッサンに執心されているようだ。
「君の顎のラインはシャープで綺麗だから描き甲斐があるよ。なぁ首と肩のラインを少しだけ描かせてくれないか。制服が邪魔だから少し脱いで。」
制服はフロントやドアマン、ベルボーイとそれぞれ異なるものを着用しているが、コンシェルジュはビジネススーツに近いもので黒のジャケットとベスト、シャツは白でネクタイは濃いグリーンだ。
胸には〜concierge Hasegawa 〜と書かれた金のバッチを付けている。
「む、無理です‥。わたくしは仕事の一環で伺いました。けれど裸にはなれません。」
「はは、裸って上を少し脱ぐだけだよ。男同士だし全然恥ずかしくないよ、ほら軽くだから。」
東海林様が隆之の制服に手を伸ばした。
嫌だっ‥‥上半身だけだとしても裸を見られたくなくて全身全霊で拒絶する。
けど絵への意欲で隆之の意向なんか考えてもいないような目つきの東海林様は怖く感じた。
嫌だっ‥まさかこんなことになるなんて‥、お願い。肩は出せない‥
震える手で東海林様を押し退けようとした時、強めのノックが三回鳴り響いた。
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