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報告
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「皆川さん、お手隙でしたら少しお時間を頂いても宜しいでしょうか。」
次の日のこと。皆川さんがやってきてコンシェルジュの席で挨拶を交わしたけれど、何やら急ぎの仕事があるようでさっさと部屋にこもってしまった。
暇そうな時間を狙って、オーナーの仕事部屋を訪ねると、皆川さんは誰かと電話をしている最中だった。
「あー、もう俺に任せてくれって言ってるだろ!ホテル経営のほうには口を出すんじゃねぇよ。」
ガチャンと派手な音を立てて、外線の受話器を置く。
タイミングが悪かったな‥と、ドアを閉めるか悩んでいると、皆川さんが手招きをしているのが見えた。
「おぉ、長谷川か。入れ。」
「失礼いたします‥。」
マネージャーに報告したら、以後東海林様のデッサンモデルはお断りするように、と言われた。ただ大事なお客様だし埋まりにくいジュニアスイートに毎度泊まってくれる方なので、離れていってほしくないようで、飽くまで気分を損ねぬよう丁重に、ということだった。そしてオーナーにも報告しておくようにと。
「あの‥一件、報告事項がありまして‥。」
「何だ。言ってみろ。」
皆川さんが座ったままデスクに片肘をついて隆之と視線を合わせる。
「いつもジュニアスイートに泊まって頂いている常連の方がいるのですが、その方が従業員にデッサンモデルをして欲しいと声をかけていらっしゃって‥そこで申し上げにくいのですが、その‥。」
「事実は事実のままに報告しろよ。」
仕事に厳しい皆川さんにこんな報告をしなくてはならないのが情けなくて目線を落とす。
「は、はい‥。服を脱がされそうになり、未遂で終わったのですが、それが画家としての創作意欲からなのか又は下心なのかは分かりかねます‥。男だけじゃなくて女性従業員も誘われたみたいなので問題かと思いまして‥。」
「画家って、あぁ。東海林って現代画家の男だろ?何だそれ。そもそもそんな怪しげな誘い受ける従業員が馬鹿だろ。」
うっ、そうかもしれません‥でもホテルの為を思っての事だったのに。複雑な気持ちが湧いてくるが、口答えせずに皆川さんの話を聞く。
「とりあえず、その客の誘いに乗るなと従業員に周知を出せ。あ、メールで出すなよ。このご時世に誤送信やパソコンの情報をハッキングされたら終わるからな。口頭での周知連絡だな。」
「かしこまりました‥。」
警察を呼ぶ、なんて大袈裟な事態にならなくて一先ずは良かった。まぁ未遂だしこちらも迂闊だったという事で非があるからか。
「で、誘われたのは誰なんだよ。」
そうだよな‥先に報告しておくべきだったのに言い出せなくてつい後回しにしてしまった。余計に言いたくない。
「それは‥、」
「まさか長谷川、お前だとか言わないよなぁ?」
皆川さんに恐怖を感じて背中がぞくっとする。
「‥‥‥。」
「お前がそれをやるかよ。何?お客様だからホテルの為を思ってとか言わないよな?」
「それは‥申し訳ありません。正しくそう思いまして‥。」
ガンっ!と、激しい物音に目を瞑ると、皆川さんが側にあったゴミ箱を蹴ったみたいだった。
マズイ、怒らせた‥。一歩間違えばホテルの名前に傷が付くし軽率な行動だったからだ‥。
そう思うと申し訳なくて目頭がじんわりと熱くなった。
「あぁ、まったく‥。もっとこっちに来い。」
皆川さんのデスクの前に立っていた俺はこれ以上どう近づくのかと頭の中に疑問符が浮かぶ。
立ち上がった皆川さんが隆之の手を引いて、デスクの内側へ連れて行く。
「座れ。」
座れって‥この部屋にある椅子はオーナーの仕事用のデスクセットの椅子しかない。
「あの‥。」
「良いから座れ。」
そう言いながら身体を押され、気付けばすっぽりとオーナーの椅子に収まっていた。
「こ、これオーナー専用の椅子っ!」
「王様の椅子じゃないんだ。俺の椅子に座るくらいどうってことないだろ。」
でも‥と、もう口には出さなかったけど落ち着かない。
「それで、だな。お前のホテルマンとしての心構えは何だ?」
デスクの上に軽く腰かけた皆川さんに見下ろされて、ビクビクと縮こまってしまう。
「‥‥‥。」
「オーケー。夕方までに考えておけ。仕事を終えたら飯に行くぞ。今日は会食じゃないからな。駐車場で待ち合わせだ。逃げたらどうなるか分かっているな。」
どうなるんですか‥。皆川さんと二人きりなんて仕事でも緊張してしまうのに、二人きりで食事に行くなんて苦行でしかなかった。
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