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傷痕
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皆川さんは少しだけ驚いたようだけど、すぐに無表情に戻る。
「あぁ。長谷川なら何かの間違いだと思ってた。」
「それはっ、その‥皆川さんが俺にご好意を持ってくれているって言ってたことに関係がありますか‥。」
デスクに肘をついた皆川さんが軽く微笑み、返事をくれる。
「そうだね。それも大いにある。お前はそういう奴じゃないってことは俺が知っているからな。」
「じゃあこれが例えば南條くんならどうします?!」
南條くん、話に出してごめん。と思いながら皆川さんの反応を待つ。
「あー、あのちゃらちゃらしたドアマンか。あいつなら制服脱がしてでも確認してやるよ。それに噂なんて、」
「じゃあ!!俺もそれで良いですから!!」
皆川さんに詰め寄り、デスクの上にバンッと手をついた。
「おい。」
「特別扱いされたくありません!俺、皆川さんにそんな素の自分、見せてない‥。俺のこと知らない癖に、なんで信じられるんですっ?!ホテルの為を思うなら何だってこなしてきた貴方じゃないですか!私情に流されるなんて柄じゃないですよ‥。」
そう言って、隆之は冷たくなった指でプチプチと制服のシャツのボタンを外していく。
それを皆川さんは慌てるでも止めるでもなくじっと見つめているが、恥ずかしい気持ちなんて全くなかった。身の潔白を主張したいのと半分はただの意地だった。
行為を抱かれているのを知っておきながら、こんな扱いを受けたくなかった。
最後のボタンを外した時、手は震えていた。
そして、はらりっ、とシャツが床に落ちた。
「‥‥っ、」
皆川さんが息を飲んだのが分かった。
隆之の左の肩には、広範囲に広がる酷い火傷の跡があったのだ。
古い傷で、何度も手術をした跡も残っている。
「東海林様の部屋から出た時、制服が乱れていて‥でも俺、どうしてもこれだけは見られたくなくてっ、隠したくてっ!だから肩だけ必死に隠しながら逃げるように出てきたんですっ!部屋から出た時に、ランドリーやルームサービスを届けに来た従業員たちとすれ違って‥。不審な目で見られてました‥。南條くんと美里ちゃんだって可笑しいと思ったと思います‥。でも刺青だってこの火傷だって好奇の目で見られるのに変わりなんてないっ!」
ここまで言い切ると、はぁはぁと息が続かなかった。
肩で呼吸をする隆之に皆川さんが立ち上がって近づいてくる。
「隠したいならこんな風に無理することなんてない。」
凛とした声ではっきりと伝えてくる皆川さんは何故か怒っているようだった。
「いつも更衣室でもビクビクしてました‥、人が少ない時間を見計らって、隠しながら着替えて。シャツだけは家から着てくるようにしたり、夏でも長袖にしたり気をつけて‥。」
皆川さんが落ちたシャツを拾いあげ、隆之の手を取り腕に通してくれる。まるで子供に服を着せる時のように優しくゆっくりとした動きだった。
「分かった。今日はもう帰って休め。」
未だ呼吸が早く、元に戻らない隆之を心配そうに皆川さんが部屋の外に誘導する。
「更衣室まで、戻れるな?俺はまだ仕事がある。今日は早く家まで帰れ。明日、迎えに行く。」
「あ、した‥?」
約束していた水曜日だろ?と言ってから皆川さんは隆之の頭にぽんっと一つ手を置き、部屋のドアを閉めてしまった。
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