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公園
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隆之が連れてきて欲しいと頼んだのは横浜港を眺められる丘の上の公園だった。
「へー、こんなところに公園があったのか。地元の人が来るところ?」
「ぷっ、ははっ、めちゃくちゃ観光客が集まる場所ですよ。俺もこの公園で遊んだことはほとんどないなぁ。あ、春は桜が綺麗なんですよ。」
先に歩いていた隆之が振り返って皆川さんを見ると、皆川さんが何とも言えない表情で隆之を見つめていた。
「な、何です?」
「お前さ、もっと笑えよ。今みたいに。」
「笑ってますよね?いつも口角を上げているのを気をつけていますし。」
皆川さんが悲しげに首を振るから彼の言いたいことがよく分からない。
「確かに仕事ではそうだな。良くやってるよ。俺が言いたいのはプライベートだ。もっと笑えよ。俺が笑わせてやるから。」
そう言った皆川さんは隆之のことを急に抱きしめた。強い力で抱きしめられて、驚きのあまり固まる。絞り出すような声ででてきたのは、拒絶の言葉だった。
「は、放してください‥。俺、俺には楽しいことなんて必要ないんですよ。好意をもって頂いて申し訳ないですけど‥今以上の関係なんて俺には‥。」
放して欲しいと伝えたのに皆川さんは腕の力を緩めてはくれず、隆之は皆川さんの肩に顔を埋める他なかった。
「はぁ‥、皆川さん。どいてください。」
「俺がいつか絶対にお前の心を開かせてやるよ。どんな人生を歩んできたのか何て今は聞かない。その代わり、必ずこの先俺の側にいたいって言わせてやる。その為なら俺は何でもするからな。良いか、覚えておけよ。」
熱烈な告白なのか脅迫なのか分からず、隆之は苦笑いを返すしか出来ず、少し緩んだ皆川さんの腕の中からするっと抜けだした。
「昨日、見たでしょう?俺の火傷の跡。俺はあれを背負って行きていくって決めているんです。誰にも頼らないし、誰にも心を開かない。でもね、それで良いんです。お願いだからそっとしておいてください‥。」
公園の奥にある夜景スポットまで早歩きで進みながらそう言い放つ。
「お前な‥。はぁ、まぁいい。少しずつだな。変な噂はマネージャーに頼んで消してもらったよ。もう何か言ってくるやつはいないはずだ。俺からの指示だからな。」
「ありがとうございます‥。」
それは本当に有り難くて素直にお礼を伝えた。
「俺がお前の盾になってやるよ。長谷川が俺に心を開いてくれなくても、それくらいなら勝手にやらせてくれ。」
「いや、でも仕事なんて嫌なことがあってなんぼじゃないですか。良く言いますよね?お給料は我慢料だって。」
高台から眺める夜景はとても綺麗だった。横浜港に浮かぶ船が何艘も見えて、ベイブリッジがキラキラと輝いている。
「ふん、嫌な仕事なんてやらなくていい。若いのにそんな古臭い考え方するな。いかに自分が働きやすいように周りの環境を整えるかだ。」
皆川さんはそう言ったきり、夜景を見るとその綺麗さに息を飲んだように眺めているようだった。
「ここ、本当に綺麗でしょう?俺本当に大好きな景色なんです。子供だったし夜は数えられるほどしか連れてきて貰えなかったけど‥。」
隆之の話を聞き逃すまいと、でも意識させて話す言葉を止めないように皆川さんは夜景を見つめたまま隆之を見ることはなかった。
「父さんが、母さんにプロポーズしたのがこの場所なんだそうです。だからここに来ると二人を思いだせて嬉しい‥。」
隆之はそれきり何も言わなくなってしまったが、彼の両親は既に亡くなっているのだろうと察した。
「冷えてきましたね、帰りましょう。」
寒さで冷たくなった手は所在なく、誰の手も掴まないし掴まえさせるつもりもない。
せめてもと上着のポケットに入れて、自分で暖めた。
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