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起きろ
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「おい、おいっ!」
温かいベッドの中で深い眠りについていた気がするが顔をぺしぺしと軽く叩かれ起こされた。
「んっ‥‥な、何です‥?」
心配そうに隆之を覗き込んでいる皆川さんと目が合う。
「俺が寝かしたんだが‥‥、うなされてたから。」
「あー‥はい‥すみません‥。」
怠い身体を起こしてどうにか座ろうとしたけど皆川さんに止められた。
「待ってろ、水持ってくる。」
「皆川さ‥行かないでください‥少しだけここにいてくれませんか。」
皆川さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにベッドの横に座って隆之の冷えた手を握ってくれた。手を払うか迷ったけど引き止めたのは自分だしその温かい体温にホッとしたのも事実で、その手を受け入れてしまう。
「あ、あの!さっきのあれ、何ですか?催眠術みたいなやつ。」
「ははっ、催眠術じゃない。護身術だな。皆川家の男は子供の時に全員習わされたな。ここをこうやって押すとな、痛みもなく横隔膜を一時的に停止させて相手の動きを抑えることができる。力も大していらないから、覚えておけよ。」
「ははっ‥凄いですね‥。さすが皆川さんって感じです。」
繋いだ手と反対の手で隆之の乱れた髪を整えるように撫でてくれる。
「嫌々習ってたよ、家に縛られるのは好きじゃなかった。今だって結局親父の会社の下で仕事してるけど、本当は自分の力でもっと仕事がしたい。」
ふと、皆川さんが歩んできた人生をもっと知りたいと思った。
「お前は?コンシェルジュの仕事、好きなんだ?そこまでコンシェルジュに拘っているとは知らなかった。」
「あっ、それっ‥!」
「大丈夫だ。もうアシスタントマネージャーの件は取り下げたよ。」
良かった‥、本当に良かった‥と思うと同時にさっき怒って暴れたことを思い出し居たたまれなくなり掛けていたブランケットを頭まですっぽりと被った。
「隆之にはこれまで通りにコンシェルジュを任せる。でもな、これだけは言っておく。そうやって自分の殻に閉じこもっているうちは最高の接客は出来ない。」
「は‥い‥。」
ブランケットからほんの少し顔を出し皆川さんを見たら思いの外に優しく微笑んでいてくれた。
「俺が取っ払ってやる。上司としてな、それなら良いんだろ?上司として一緒に住んでお前を根本的に教育してやるし、栄養管理もしてやるし、あとは。」
「ちょっと!上司としてって言ったら何でも俺が言うこと聞くって思わないで下さいよ!あと何で勝手に名前呼びしてるんですっ!?職場じゃ呼ばないでくださいよっ!?」
「ははっ、良いね。じゃあ俺、夕飯の続きを作るから着替えたらリビングに来いよ。」
パタンっ、と閉まったドアを見てからもう一度ブランケットを被って中で丸くなった。
「はぁ‥、、、どうしよう、、」
皆川さんはああ見えてとても優しいと気づいてしまった。隆之がうなされていたことにも問いたださなかったし無理に過去を聞こうともしない。隆之のことを好きでいてくれていて受け入れてくれる。オーナーと従業員。なのにこの奇妙な関係は続けていて良いのだろうか。そして隆之の中で湧き上がってくるこの気持ちは何なのだろう、名前をつけられないその想いは隆之の胸の中でもやもやとして解消しないままだった。
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