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料理
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次の日の朝食から食卓に並ぶのは食べやすくカットされたフルーツや、ヨーグルトだった。
少しずつ慣らしていけば良い、と皆川さんが言ってくれてその気持ちが嬉しくて有り難かった。
隆之は変わらず料理をする事はない。たぶん皆川さんは気づいている。隆之が火が怖いことを。自分が料理中は絶対にキッチンに入らせないし、手伝ってくれとも言われたことはない。
でも皆川さんに甘えてばかりの自分が時折酷く嫌になる。少しずつ、少しだけでも自分を変えていきたくて今夜は手伝いを申し出てみた。
「皆川さん、何か手伝うことありませんか?」
「んー、じゃあ食器並べて。食器新しく買ったんだ。二人分の食事作るの楽しくてさ。食器棚の一番上に入ってるからお願い。」
皆川さんの気遣いが分かってバツが悪い気持ちになった。
「俺も、何か切ったりします。いつもやって貰ってばかりでしたし。」
トントンと包丁で野菜を切っていた皆川さんが目を丸くして振り返った。
「ありがとう。・・・大丈夫か?」
「出来ることだけお手伝いさせて下さい。」
嬉しそうな皆川さんがザルとボウルを手渡してくる。
「レタスちぎって、水で洗って。」
なんか子供がお母さんのお手伝いするレベルのことだな、と不満に思ったが初心者にはこれくらいで丁度良いかもしれない。手を洗ってレタスをちぎり始めた。
「俺の親父の会社さ、食品を扱う貿易会社だろ?だから色んな国の珍しい調味料とか頻繁に持って帰って来るわけ。母親は料理好きな人だから喜ぶんだけど、好奇心旺盛だからパンチが効いた料理ばっかり作るんだよ。」
皆川さんが家族の話を穏やかな表情でしているのは珍しく隆之は相槌を打ちながら話に聞き入った。
「調味料もナンプラーやバルサミコ酢なんて普通なほうで、ベトナムのタマリンドって言うめちゃくちゃ酸っぱいのとか、あとどこか忘れたけどエクジョとか言うのも何とも言えない味がしたな。使いこなそうとチャレンジするんだけどいつも俺が一番初めに味見させられて‥。」
「ふふふっ」
困ったように話す皆川さんだけど、お母さんを大切に想ってるのが伝わってくる。
「あ、ごめん‥。」
「何で謝るんです?気にしないでください。もっと聞いていたかったです。」
ん、と返事をした皆川さんに小声で俺も母の料理で思い出話ありますよ‥と声をかけた。
「俺、昔は本当に少食で。だから背も伸びなくて細かったんですけど、母の作る肉じゃがだけは大好きだったんです。ちょっと甘めで美味しくて、お皿によそう時に沢山食べなさいってたっぷり乗せてくれた。」
皆川さんが心配そうに覗きこんでいて、どうしたのかと思うとレタスをちぎる手が止まっていたようだった。
「泣く?俺の胸で。」
冗談交じりの皆川さんの言葉に、顔を赤くして首を振る。
「泣かない。両親の葬式で泣いてから、もう泣かないって決めたから。」
隣から、はぁ〜・・と深い溜息が聞こえた。
「お前な、だから夜中にうなされてるんだぞ。我慢しすぎ、頑張りすぎ。もっと肩の力を抜いて欲しいけど真面目だからなぁ。よし、俺が泣かせてやる。次の休みが合う日、泣ける映画でも見に行こう。」
皆川さんはそう言うなりコンロを使うからとキッチンから隆之を追い出し、口を挟む間も無く初デートする約束をしてしまった。
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