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恋バナ
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「ったく、何で俺がそんな相談受けなきゃなんねぇの?」
「・・・別に南條くんには相談してないよ。美里ちゃん、どう思う?」
昼休みに休憩室で一緒になった美里ちゃんに、デートってどうしたら良いのか相談していた。
「南條くんはたまたま近くの席に座ってただけですもんねっ。聞いてなくていいですよ〜。でっ、で!映画は何見るんですかっ?映画のあとは何するんですか?」
「何だろう‥なんか泣ける映画とか言ってたけど‥、その後は帰るか、寄っても夕飯食べて帰るくらいかな?」
うんうんと相槌を打ちながら、スマホで何やら検索をしている美里ちゃん。横では南條くんがイライラしているのが分かり、やはり職場でこんな話をするんじゃなかったかと反省する。
「あー!今タイミング良くラブロマンスで切ない系の映画やってます!美里、これ小説で読んだけどすっごい良かったです!これにして下さいよ〜!」
美里ちゃんのスマホを覗き込むと、ベタベタ甘々な感じで女性受けしそうな映画の公式ホームページが見えた。これはちょっと・・・と隆之は苦笑いを返す。
皆川さんは隆之を泣かせたいと言っていたが、そもそも隆之は泣きたいのではない。だから泣ける映画じゃなくても良いんじゃないかと思ってきた。
映画を映画館で見ることなんて本当に久しぶりのことだし、それどころか誰かと映画を見ることですら初めての経験かもしれない。それならせっかくだから好きな映画を見たい。
皆川さんの好みの映画はどんなものだろう、デートとは何を着ていけば良いのだろう、柄にもなくそんなことを考えて心が浮き立っていた。
「じゃ、俺先に仕事に戻るわー。」
ガタンと椅子から立ち上がり南條くんが制服のナポレオンジャケットを羽織った。
「あれ?南條くん、まだ早くない?」
腕時計に目をやりながら声をかけると南條くんは手をひらひらと振りながら行ってしまった。
「ただ拗ねてるだけですよっ、きっと。南條くん悔しくてたまら無いんだろうな〜。」
美里ちゃんはくすくすと笑いながらそう言った。
「美里は長谷川さんのこと応援してますっ!オーナーとなら絶対幸せになれますから、心配せずに胸に飛び込んで来ちゃって下さいねっ!」
「う‥、うん・・。」
皆川さんの想いに応えられる程、気持ちが追いついているわけではなかった。けれど、どうしたって最近は皆川さんのことを考える時間が増えているのも事実だ。
一緒に住んでいるからだ、上司として尊敬しているからだ、などと自分に言い訳をしてきたけど、考える度にキュッと痛む胸がその言い訳を否定する。
失うことが怖いから大切な人なんかいらなかった。だけど、今皆川さんの手を自分から振り払う勇気なんて到底なかった。
美里ちゃんにお礼を言って、隆之も仕事へと戻る。
桜が散るこの時期になると、ほんの少しだけお客様が減る。ホテルとしたら空室が出る為、喜ばしくないが従業員から見ればいつもよりゆっくりと仕事が出来て束の間のホッとする時間だった。
「お得意様へのDMとハガキを書いちゃうかな。」
ホテルマルキーズの美しい佇まいを写したポストカードにさらさらと万年筆で一筆を加えていく。
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