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隆之の気持ち
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皆川さんが帰って来ない。連絡もない。かと言って隆之から連絡する勇気もなくてただ待ち続ける他なかった。
「何で帰って来ないのっ・・。」
隆之の悲痛な声が家主の居ない家の中に響く。
自室にこもる気持ちにもなれず一晩中リビングのソファーに丸まって過ごした。
うとうとと浅い眠りに何度か落ちたが、もしかしたら帰ってくるかもと淡い期待で寝付けはしなかった。
こんな時に気付きたくなかった。けどこんなにも皆川さんを待ち望む気持ちはどうしてなのか隆之は気付いてしまった。
「皆川さん・・、俺のところに帰ってきて・・・。」
殆どと言って良いほどに睡眠が取れないまま、朝を迎えてしまった。
帰ってくると言っていたはずの皆川さんは結局帰宅することはなく、隆之も出勤するしかなかった。
*
「おはようございます。」
「おはよう、長谷川くん。おや、顔色が悪いけど大丈夫かい?」
牧谷さんに心配されてしまうが、事情を説明するわけにもいかないし空元気な返事を返した。
「本当かい?無理しないで。それでもし体調が大丈夫ならばお客様が長谷川くんに会いたいとお待ちなんだ。」
「え?俺宛のお客様ですか?」
隆之個人を訪ねてくるお客様なんて居ただろうか。今日は常連のお客様のご宿泊予定も入っていなかったはずだ。
牧谷さんに言われてラウンジのティールームへ足を運ぶ。
朝のこの時間はお客様もまばらだったが、優雅にお茶を飲みながら本を読んでいる女性が目に付いた。サラサラの髪を緩く束ね、若く、美しい人だ。不思議と魅入っていると、はたとその女性が顔を上げた。
「もしかして貴方が長谷川隆之さん?」
「はい。当ホテルのコンシェルジュの長谷川でございます。お待ち頂いていたようで申し訳ございません。」
軽くお辞儀をして挨拶をする。
「どうぞ、お掛けになって。少しお話がしたいのでお茶に付き合って下さらない?」
「いえ、業務中ですしお茶は遠慮させて頂きます、
お話とは何か伺えますか?」
仕事柄落ち着いた声で会話しながらも、この女性は誰なんだと焦燥感が募る。
「私は佐久間 沓子(さくま とうこ)と申します。進太郎さんから貴方のことを聞いて会ってみたくなったの。」
「トウコ・・沓子さん・・・。進太郎って皆川さんですか!?」
目の前の綺麗な女性はゆっくりと頷き、唇で弧を描く。
「私と同じ歳って聞いていたけれど随分と年下に見えるのね。」
幼い見た目だと貶されているのだろうか。返答に困っていると、
「昨日、彼を引き止めたのは私なのよ。ごめんなさいね、昨日は私とここのスイートに泊まっていて。婚約発表のことでナイーブになっていた私を慰めてくれていたの。」
彼女の言葉に息が上手く出来なくなった。皆川さんのことを好きだと自覚した途端に打ち砕かれてしまったのだから。隆之のことを可愛いだの大切だなんて口にしていても、皆川さんにはまさかの婚約者がいたのだなんて。
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