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囚われたまま
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階段をどんどん駆け降りていく。
早く、早くと足がもつれそうになりながらーーー。
息が苦しくても怖くてもそうやって足を動かすしかなかった。
あの日ーーーー。
俺は大好きな両親と平凡な日常を全て失った。
「はぁ・・はっ、、はぁ・・!」
「・・ゆき。隆之。起きられるか。」
額に冷たさを感じ、ゆっくりと目を開ければそこは既に家のベッドの上だった。
汗ばんだ額をタオルで拭ってくれる皆川さんは無表情のままで何を考えているのだろうと不安になる。
「ごめ・・んなさい・・。」
小さく漏れた声はひどく掠れていた。
「何を謝る必要があるんだ。隆之は自分の仕事をきちんとこなした。良くやったよ。」
穏やかな表情の皆川さんを見上げ思う。
全然違うんだ・・途中で使い物にならなくなるし、沓子さんの命より自分を優先して引き止めたし。
自己嫌悪に落ちる気持ちを止められなくて、額のタオルを払い落とし起き上がる。
「良かったです、沓子さんが無事で。俺は・・俺なんて大したこと出来ずに、役立たずですよ。」
投げやりな言葉を吐いた隆之に、皆川さんは何故か緩く微笑んでいる。
「着替え、させてやりたかったけどジャケットを脱がしてやっただけなんだ。楽になるから着替えろよ。」
皆川さんの手が隆之の胸元に伸びてきて、シャツのボタンを外す。
「なっ、な、、、これくらい自分でやりますっ!」
「ははっ、変なことはしないから大丈夫だよ。」
変なことって何・・。なされるがままにシャツを脱がされ部屋着に着替えさせられる。まるで幼子のようで気恥ずかしさもあったが不思議ととても嬉しかった。
「ずっと、長い間一人で良く耐えてきたな。辛かったか?」
皆川さんと向き合うようにしてベッドの上に座り、真っ直ぐに見つめられ問われる。
「・・・はい、とても。」
「・・・。ご両親が亡くなったあと、どうやって暮らしてきたんだ。」
同情されているのではと怖くて皆川さんの目を見ることが出来ず、そわそわと膝を撫でる自分の手を見ていた。
「母方の祖父母の家で世話になっていました。その祖父母も学生時代に亡くなってそれからは一人暮らしです。」
何処まで聞いていいのだろうかと戸惑いがちに質問をしてくる皆川さんの様子が見て取れて、隆之は申し訳なくなる。
「すいません・・こんな俺の昔の話なんて聞いてもウザったいですよね。」
立ち上がり、何か飲もうとキッチンへ向かおうとした。
「行くなよ。」
急に背中に感じた暖かい温もりは紛れもなく皆川さんのもので、あぁ本当に約束通りに帰って来てくれたんだと胸が熱くなる。
「お前のことなら何でも知りたい。俺の腕の中で、泣かせたい。」
「ふふっ、どうせなら笑わせてくださいよ。」
え・・、と少し驚きが混じった声が聞こえる。でも隆之の中で固まった一つの気持ちを伝えたいと思った。
「俺、皆川さんのこと・・・。」
「好きだ。」
「え?!」
食い気味に放たれた言葉に隆之は驚いて振り返る。
「隆之のことが好きだ。俺と付き合ってくれ。」
見ると真摯に隆之を見つめる皆川さんが艶やかに微笑んでいた。
この漆黒の目に見つめられると絶対に晒せなくなってしまう。
蛇に睨まれた蛙のように動けず、でもどうにか震える唇をそっと動かす。
「はい・・。俺も・・、す、きで、、す。」
「ははっ、動揺しすぎだろ。」
豪快に笑う皆川さんが遠慮を感じない強い力で抱きしめてきた。
「良かった・・やっと俺のことを受け入れてくれたな。」
「ありがとうございます・・待っててくれて。」
すんと皆川さんの匂いを吸い込めば心地よい安心する香りがした。
「俺、結構面倒くさい人間だと思うんです。お気づきでしょうけど寝ている時にしょっ中うなされるし、自分でも分かっているんですけど自己肯定感が育ってなくて・・原因はやっぱり両親の死かな・・自分だけ助かってしまった負い目。それに・・・。」
ポツリ、ポツリと拙い言葉で話す隆之の話を皆川さんは辛抱強く待って聞いてくれた。
「実は火災から助かったのはコンシェルジュだった従業員の方が助けに来てくれたからなんですよ。でもその方はどうなったのか分からなくて・・。俺だけが、こうやって、生きてる・・たまに生きていることが現実か夢か分からなくなる・・。」
そこまで言い切ったとき、急に隆之の唇が塞がれた。
「んっ・・んん・・!」
急にキスをされた事に気付き、反射で皆川さんの胸を押しかえす。
「なななななっ何するんですっっ?!?」
「夢じゃないだろう?抓るより良いかと思って。」
「はぁぁ〜?最低っ!!!大体いつも唐突なんですよ!俺は皆川さんが初めてなのに!!」
とそこまで言って急激に恥ずかしくなる。
「次は優しくするから。目、閉じて。」
「バッカじゃないですか!!」
背を向けて赤くなった顔を隠すが耳までは隠せていなかった。焦ったり照れたりしている隆之を優しく眺め、皆川さんはやっと思いが通じたことに安堵する。
それと同時に、長い年月をかけて培って来た隆之の負い目と未だに抱えているだろう苦悩をどうやって解きほぐしていこうかと使命感に駆られ、複雑な微笑みを携えた。
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