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記憶
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彼とは別に特別な出会いではなかった。
僕がカフェに本を忘れて、たまたまそれを届けてくれた彼がたまたまその本をすきだった。
そこからたまに会うようになり、気づけば3日に1回は会うようになっていた。
好きな本の話をして上司の愚痴を聞いて。
彼はゲームが得意だった。僕が苦戦する姿を楽しそうに笑って見ていた。その時間が心地よかった。
時々唇を重ねて、時々身体も重ねた。
彼がどんな気持ちで僕を抱いていたのかは僕は知らない。
彼からは時々、女物の香水の匂いがした。
吐きそうになるほどの甘いきつい匂い。その匂いがなぜか僕を酷く孤独にさせ不安を煽った。
別に彼と付き合ってはいなかった。だから、僕は彼を縛ることは出来ないし、なぜそんな香りがするのかも聞けなかった。
僕には聞く資格もなければ聞く勇気さえもなかったから。
ある日突然見知らぬ女性が僕たちの目の前に現れた。彼は不思議に思ったのだろう。
なぜ君がここにいるのだと。
僕は彼女を知らない。だけどすぐに誰かわかった。あの香水の女。
「どういうつもりなの」
彼女は冷静な声で、しかしどこか焦りが混ざっているかのような声でそう言った。
僕には彼女が言った言葉の意味がわからなかった。分からないのに彼女のその一言で僕の体は熱が籠ったかのように熱くなり、心音が鼓膜を破るほど僕の中に響いた。
彼の方は彼女の言葉に一瞬驚いた表情を見せて
「どういうつもりって言われても、彼はただの友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない。」そう笑顔で言った。
酷く鈍い痛みが私の頭の中に走った。ズキズキと蝕んでいくかのように脈を打ちながら痛む。痛い。頭がイタい。
彼女は僕らの目の前から去っていく。
その後を追いかけるように彼が去ろうとする。
「行かんで。僕、うっしーが好き。やから行かんといて。」
必死になって彼の腕を掴む。そうしなければもう二度と彼に会えないと咄嗟に思ったから。
彼は一言、
「ごめん。」
そう言って僕の前から去っていった。
滑稽だと思った。
こうなることは分かっていたはずなのに最初からなんの期待もしていないはずなのに理解出来ないほどに傷ついている自分自身が酷く哀れで滑稽だった。
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