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Chantilly flower* 12
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「志摩くん?! 千花ちゃんもっ?」
困惑の綾人さんと今にも人を殺しそうな志摩。
男の人が、急に飛び出してきた志摩を一瞥する。
空気の温度が下がっていく。
「……誰、お前。俺たちいま大事な話してるんだけど」
男の人が言う。
志摩が反応して動こうとするのを素早く察知した綾人さんが声で制した。
「雅樹」
それに反応して、男の人は1度目を細めてから改めて志摩を舐めるように見た。
「ふーん、なっつかしーな。海南の制服って事は後輩でコウコウセイか」
なあ、綾人?
と綾人さんに顔を向ける。
え、綾人さんて海南の先輩だったの?!
一緒の制服着てたのかぁ。似合うだろうな…。
なんて妄想に浸りたいところだけど今はそれどころじゃない。
対する綾人さんはこの現状に参ってしまったように頭抱えてため息をついた。
「雅樹、………今日はもう帰って」
だけど男の人は気に食わないことがあるらしく引き下がろうとはしない。
綾人さんを背中に隠す志摩を睨み返した。
「まだ話は終わってねぇよ。おい綾人、お前まさかさぁ、このガキと付き合ってるとか言わねえよな?」
「………ッ雅樹!」
一瞬。
氷の矢が間を通ったかのような衝動が空気を走った。
大きな声という訳では無い。
けれど綾人さんの普段からは本当に想像出来ない冷酷な音にその場の全員が凍った。
「………帰ってって、言ってるだろ」
ゴクリと誰かが息を呑む。
そらから、舌打ちの音。
「……綾人」
「………」
「俺は諦めねえからな」
男の人は志摩をもう一度睨むと髪をかき上げながら立ち去っていった。
「………今更すぎだよ」
誰に言うでもない、綾人さんが発した音だけがぽつんとそこに落ちて、綾人さんの表情が無くなった。
無表情も、怒った顔も見た事なんて無かったからまるで別人がそこに居るみたいに感じてしまってすごく不安になった。
でも…、
「都築さんすみません、勝手なことして」
志摩が声をかけると、その顔は無表情ではなくもう困った様な優しい顔になった。
…違和感はいっぱいだけど。
「………ううん、助かったよ志摩くん。ありがとう」
「いえ…」
「あー……、変なところ見せてごめんね?」
「あ、いや…」
「千花ちゃんも。どうしたの?忘れ物?」
「あ、私は携帯をスタッフルームに」
「じゃあ取って来てあげる」
「ありがとうございます」
「いえいえー」
「…都築さん」
穏やかななんだけれど、隙ができないように矢継ぎ早に話し店の通用口の中に入っていこうとする綾人さんを志摩が止める。
綾人さんの背中が大きく揺れた。
「…あ……の…、今の人」
「…元恋人」
背中を向けたまま迷うこと無く答えの音だけをだす。
機械のように。
綾人さんがどんな表情をしているのかは、私にも志摩にもわからない。
ぎゅっと拳を握りしめた志摩は、何も言わない。言えないのかもしれない。
ちょこっとの沈黙が流れたあとに、最初に息をついたのは綾人さんだった。
「ごめん、今日は、帰って?せっかく来てくれたのに、ごめんね」
首だけで振り向いたその顔は変わらず、困った様に笑っていた。
それからガチャン、と音を立てて、近づいていた2人の距離が一気に遠くなるように通用口の扉が閉まった。
志摩は、その扉を見つめてた。
「志摩…」
私は声を発したところで何を言っていいのか分からなくて、志摩の背中とその向こうで閉まってしまった通用口扉を見ることしかできなかった。
相変わらず雲が流れる音がごーごーと聞こえる。
頭上で最早切れ目のない巨大な雲に満月が覆われた。
志摩は、綾人さんが私の携帯を持って来るのを待たずに帰ってしまった。
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