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「悪いんですが、これから仕事なんで。消えてもらって良いですか」
バックにSPぽい奴がいるのによく言えるなと感心すると共に、背筋がゾッと寒くなる。
撃たれる……絶対殺される。
「あはは、そんな酷い扱いされたの初めてだよ。取って食おうとしてるわけじゃないから安心して。何なら、職場まで送って行くよ」
「断る。あんたと一緒にいるだけで変に注目浴びてんだよ、沖野を混乱させんな」
「……うーん、仲良くしたいだけなんだけどなぁ。沖野君は、嫌?」
「え」
唐突に俺の方へ振られて焦った。
それに、目をうるうるさせて猫のように見つめてくるから返答に困る。
……あざとすぎんだろ、てかこんな抜けてる人だったのか。
「…………いや、じゃないですけど」
「ほらぁ、沖野君は優しいね〜」
「おい……」
今日の夕飯、何にしよう……
なるべく悠人と目が合わないように自然に視線を向けた。
押しに弱すぎる。
結局、佐伯さんの車に送ってもらう事となった。
悠人は何を考えているのか窓の外を見ていて、隣に座っているのさえしんどい。
絶対、軽い奴だと思われたよな……
「ねえ野株。車に沖野君が乗ってるなんて、俺嬉しすぎて心臓吐きそうだよ」
「坊っちゃん、ここで吐いたら仕事に支障が出ます。吐くなら今日の仕事を終えてからで」
「つれないな……本当は、連れ去りたいくらいなんだけどね」
逃げたい、帰りたい、消えたい。
本当にやばい奴だった。
今ここから飛び降りれば、逃げられるのに……
「降ろすの、ここで良い?」
数分して会社の近くへ着いた頃には、俺は車酔いで死んでいた。
普段は酔いなどこないのに、色々考えすぎて気分不良。
「沖野君? 顔色悪いけど大丈夫?」
大丈夫じゃねえよ! とはさすがに言えなくて苦笑いを浮かべて車を降りる。
「さすがに会社まで連れて行くと取り巻きが特定しちゃって鬱陶しいかもしれないから、ここでお別れだ」
お別れでもカイワレでも、何でも良いから帰りたい。
「じゃあね、沖野君と有馬君」
挨拶する佐伯さんを華麗にスルーした悠人に支えられ、会釈をして少し見送った。
と同時に、俺と悠人の「え?」という声が重なる。
「……俺、あいつに名前言ったか?」
「いや……一度も」
数秒の間の後に背筋が凍る。
何者なんだ、あの男……まさか本当に、悪の組織のボスだったりするんだろうか。
「てかお前、尻軽もほどほどにしろよ」
会社に着いた途端、悠人が思い出したように言い始めた。
それも、周りに従業員がいるのに言うから挙動不審になる。
「別に好きで言ってねえし。あんな目で見られたら断れないっつーの……!」
「良いところの坊っちゃんかお前は。あんな奴のどこが良いんだか」
「だ、だから好きじゃないって!」
「好きじゃないなら尚更断れよ尻軽」
「このッ……」
悠人の胸ぐらを掴んで頭突きでもしてやろうかと思ったところでエレベーターが開いて、女性社員がポカンとこちらを見てきた。
「……あ……おはようございます」
「おはようございます。何階ですか?」
「六階です」
困惑している俺とは正反対に冷静な悠人がムカつく。
どこから、なんだろうか。
壁に背を預けてチラリと女性社員の方を一瞥する。
俺は普通に、異性が好きなはずなんだが。
綺麗なうなじに細い首、柔らかそうな腰つき、スラッと伸びた白い脚____
やばい、全然勃たねえ……。
「あの」
唐突に振り返ってきた女性社員と目が合い、焦って逸らしそうになった。
めっちゃ見てたと思われる、どんなタイミングだよ……!
「へ、はいっ?」
「もしかして……雑誌出られました? Lilyとか……」
「え……」
「す、すいません。似ているだけかと思ったんです……違いますよね」
「……いえ、出ましたけど」
言ってしまったが結果、一般人の俺がなぜか彼女にサインを渡すことになった。
上手く嘘をつく方法を誰か教えてほしい。
事務室に着き、白澤さんと世田谷にその案件を話すとゲラゲラ笑いだす始末だ。
情に流されて無理難題を引き受けるべきじゃなかったとひどく後悔している。
「沖野さん、本当に大人気ですね! 私も、女子高生の気持ちがすごく分かります」
「女は沖野みたいな男好きだよな。彼女にも雑誌を見せたらアイドルを見たように騒いでいたよ」
「やめてください、黒歴史が……」
「これ、見られました? ネットで凄い反響なんです」
そっと世田谷の差し出してきた携帯画面を覗くと、どういうわけか俺の映った部分が切り取られ、ネットにあげられていた。
『かっこよすぎる美青年! これで一般人らしい!』と変な書き込みがあり、拡散マークに二十・五Kの文字。
「……なにこれ」
「Lilyを買った人が沖野さんに目をつけて、軽い気持ちでネットにあげちゃったらしいです。そしたら拡散されすぎて……」
「あーあ、これは危険だな。仕事に支障が出ないと良いが」
もう既に支障が出ている。
たった一度の代理で、ここまで面倒ごとになるとは思わなかった。
悠人の言う通り、最初から断っておけば良かった。
それに、悠人が家で言ってきた時も軽く流していたし、つくづく自分の馬鹿さに呆れる。
もう相手にするのも嫌なのだろう、悠人はデスクに向き合いどこかへ電話をかけたり書類作りに心身になっていたり、俺の方を一度も見てこない。
いや、別に良いんだけど、良いんだけど。
「……悠人、怒ってる?」
不安が拭えず、恐る恐る声をかけてみた。
さすがに俺も悠人の気持ちを考えずに行動してしまっているし、怒られても仕方ないかもしれない。
そこで初めて俺の方を向いた悠人と目が合い怒られると身構えたら、ふっと笑みを浮かべるから心臓が飛び跳ねた。
……え、なに、なんで笑った、え?
「そういう顔されると弱いわ……可愛いな、お前」
「は」
ドキドキ言いすぎて吐きそうだ。
愛おしげな眼差しを向けられパッと目を逸らした時、俺も悠人も背後から頭を本の山で叩かれる。
「痛たっ」
「会社でイチャイチャするな、お前ら。世田谷が困ってるだろ」
「……あ、いえ、その……私はむしろ好きです」
「はっきり言うなよ」
顔を真っ赤にしている世田谷が早足に自分のデスクへ戻って行くのを見届けて、俺も熱くなる顔を突っ伏して隠した。
なんでなんだ、女性の細くて綺麗な体を見ても勃起できないモノが、悠人の一言と笑顔だけで半勃ちしている。
……すげえヤりたい、でも仕事先でするのは本気で怖い。
いつからホモになったんだ俺は!
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