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彼の過去(犯)
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「公ちゃん?」
幼馴染みの悲報を聞いた彼は、気が付くと目の前の何かに牙を突き立てて液体を啜っていた。口の中は、甘くて痺れるように美味な液体に満たされていた。それを嚥下する度に、射精感に似た感覚が脳髄を犯す。
何かから口を離し周りを見てみる。自分はいつのまにか、あの吸血鬼が寝蔵にしていた天然窟に座り込んでいた。
周りには濃厚な鉄の臭いが漂い、何故か腹一杯で、とても満ち足りた気分だった。振り向くと、友人達と転校生がいた。それと、その前に黒色のコートを纏う見慣れない男がいた。
友人の一人が此方に向かって来ようとして、転校生に止められていた。何故だろう?転校生は彼を睨んで木の杭を向けていた。
『たしか、アイツは木の杭で吸血鬼を殺すと言っていた。馬鹿だよね。そんなので僕達を殺すことなんて出来ないのに。』
興奮にボウとなった頭で不思議に思いながら見つめていると、コートの男が転校生を制止した。
「止めろ。この坊主は違う」
「オッサン、何言ってやがる。今の見ただろ。コイツは血を吸って殺したんだ。同じだ」
「村の奴等を殺したのは奴だけだ。それに、目覚めた始祖級の吸血鬼を刺激するな。この場にいる奴等を瞬殺できる力を持っているんだぞ」
二人の言い争いに首を傾げた彼は、ようやく自分が抱き抱えている物に気がついた。悲鳴をあげながら【それ】を地面に投げ飛ばす彼。
それは、ああそれは!
彼が【初めて】吸い殺した【吸血鬼の死体】だった。
「ああ・・・・・」
彼は頭を抱えて蹲った。彼の血に染まった口から嗚咽が漏れる。
とうとう・・・・・・・。
とうとうしてしまった。
他人の首から直接血を啜った。
圧倒的な罪悪感、恐怖感、嫌悪感、喪失感、そして満足感。
自分は何をした?そうだ、確か化け物を見付けたらコイツが転校生達と戦っていて、また友達に襲い掛かっていて。それで僕は僕は……へ?
彼は思い出す。自分は吸血鬼を引きずり倒し、覆い被さって血を啜っていたのだ。吸血鬼の手足を歪に折り曲げて殴り付け、体の一部を引きちぎった。
苦悶に歪んだ顔の死体を見ると、激しい暴行と苦痛を受けた事が分かる。彼にも小さな傷が少しだけあるので、吸血鬼から反撃されたようだ。
だが、彼は勝った。
甘美な満足感がその証。
絶望が体の中を駆け巡る。
「あ……ぁああっ……あぁぁぁぁぁぁ!!」
なんて事を 美味しかった 友達の前で 美味しかった 終わりだ 美味しかった 僕は復讐の為 美味しかった 美味しかった 美味しかった 美味しかった 美味しかった
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
圧倒的な満足感に頭の中が混乱する。何故?自分は殺してしまったのに、この感覚は何?その感情に振り回されるように、彼は髪を掻き乱す。手を髪の中に差し込み、前後左右に動かしながら頭を左右に振る。髪を振り乱しながら、ブツブツと呟く姿は、まるで幽鬼のようだ。
「公ちゃん!大丈夫?」
【何か】を必死に否定していた彼は、その声に頭を上げた。そこには、一番親しい小柄な友人が、心配そうな顔をして彼を見つめていた。彼は、いつもと変わらない友人の顔に希望を見いだした。もしかしたら、助かるかもしれない。
こんな状況で、一体何が助かるのか?具体的な事は思い浮かばなかったが、一瞬だけ期待した。彼は助けを求めていた。
しかし、それは簡単に打ち砕かれる。
「寛ちゃん、たす」
小柄な友人に伸ばした手。それは、転校生に叩き落とされた。彼が転校生の顔を見た時、希望が絶望に染まった。
「寛ちゃんに何するつもりだ化け物!」
その言葉に、自分を見る友人達や転校生の瞳に、何かがフツと切れた彼は、絶叫しながら泣きわめいた。
彼の慟哭に従って、彼の周りの影が不自然に揺らめき、胎動するかのように脈打つ。
「馬鹿!刺激するなって、言っただろう!」
見知らぬ男が読経のような言葉を口ずさみ、彼の体に不可視の何かが絡み付く。そんな事を構わず、彼は泣きわめく。
血に濡れながら大地を震わせて涙を流す姿。それはあたかも、吸血鬼として生まれ落ちた彼の産声のようだった。
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