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素晴らしい血液
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「公彦さん、どうぞ」
次の日の放課後、総司が屋敷を訪れた。宗之助は能天気な顔で寝ていた為、公彦は一人だけで彼を座敷に案内した。広々とした座敷に敷かれた座布団の上に座るやいなや、公彦に差し出された物は粘着質な赤い液体が詰まった小さな瓶だった。手のひらにおさまりそうな小さな瓶を受け取り、その感触と温もりを感じただけで分かる。
中身は生き血だ。
しかも、特上の……。
「い、いけません総司様。これは……」
瓶の隙間から漏れてくる、かすかな匂いが鼻をくすぐると同時に生まれた衝動を我慢する。いままでは嫌悪感に紛れていた、切ない程の血への渇望。それが今ではハッキリと浮かび上がり、理性をガリガリとかきむしる。
血が飲めるようになりたかったが、自分の食欲の激しさに恐怖を感じる。どうにかなってしまいそうで、俯いて瓶から視界を外し、なんとか総司に瓶を突き返した。
「大丈夫ですよ公彦さん。少し特殊な血ですから、公彦さんが血に狂う事はないです。少しの量で飢えは癒されて満足して頂けると思います。まずはこれだけ飲んでみて下さい」
そう言った総司は、なんと瓶の蓋をとってしまった。途端に溢れだす血臭。そのなんと、芳ばしくも甘美な事か。
「公彦さん、手を出して下さい」
顔を背けて眼を瞑っていた公彦だったが、総司の言葉に従い咄嗟に両手を差し出してしまう。総司は何でもないように笑いながら、公彦の手のひらの上に小瓶を置く。その重みに、ゾクリと悪寒に似た感覚が背筋に走る。
「あ……ぅ……」
「それでは公彦さん。俺は部屋から出ますので、ゆっくりと味わって下さいね」
「ちょっまっ」
ヒラヒラと片手を振りながら、襖を開いて立ち去る総司。一人っきりになってしまった公彦は、恐る恐る瓶を見下ろす。自分の手のひらの上にある瓶の中に満ちた赤黒い液体。ぬぅとした液体の表面は、滑らかでビードルのように美しかった。公彦の喉仏が上下に動いて唾を飲み込み息が荒くなる。
周りに誰もいなくなった瞬間、彼の眉が下がり、目尻が緩み、切ないような、やるせないような、濡れた表情になった。それはまるで恋する乙女の顔である。公彦は立ったまま体を曲げて、瓶の口に顔を近付ける。ゆっくりゆっくり少しずつ。近付くごとに甘い香りが強くなる。興奮によって手が震えて水面が揺れ、チャピチャピと鈍い音が耳をくすぐる。
瓶の口が間近にせまり、公彦は舌を差し出す。白い肌から想像できないような赤い舌。地獄の業火の如く赤色の舌が長く伸び、芳ばしい血の水面に触れる。
「うっ」
その衝撃は何と言えば良いのか分からない。美味しいとか甘いとか、既存の言葉で表すことは出来ない。ただ、舌が血液の表面を撫でた瞬間、脳髄を辿り腹の中を掻き混ぜるような感覚が走り霊力が流れ込む。腰からカックリと力が抜け、床に座り込みながら舌を動かした。
素晴らしすぎて、正気を失わなかった。それは痛みで気絶しそうになり、痛みで正気に戻る感覚と同じだった。
「んっ……くぅ……ぁ」
この素晴らしい味を一気に飲んで失いたくない。ちびちびと猫のように血を舐めたが、瓶の中の血は直ぐになくなってしまった。公彦は空になった瓶に舌と指を突っ込み、その内壁にこびりついた血液を舐め続けた。その姿はまるで誰かに舌で奉仕しているようであり、いつの間にか乱れた襟元を汗が落ちていく様は、情事の最中であるかのような雰囲気である。
瓶の内壁に残った血液を全て舐めとった公彦は、満足げな吐息を吐き出して唇を舐めるのであった。
その後、総司は一週間に一度の割合で、この美味な血液を公彦にもたらした。
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