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噂の彼(4)浅野Side
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「さむっ」
引き戸を開けて外に出ると、暖かい室内とは打って変わった外気の冷たさに、思わずブルッと身を震わせた。
12月だぞ。
これじゃ頭どころか全身凍えそうだ。
「それで、さっきのはどういうつもりだよ?」
篠原は振り向きざまに俺を睨み付けながらそう言った。
「さっきのって?」
明らかに名前で呼んだ事だと分かっているが、篠原のもう少し怒った顔も見てみたくて、そう返した。
「とぼけたって無駄だからな。さっきわざと名前で呼んだだろ?」
「名前で呼ぶぐらい別にいいだろ、篠原だって釣られてたし」
「うわ、開き直った。よく無いから言ってるんだろ!いつも苗字でしか呼ばないのにいきなり名前で呼んだら変に思われるし…」
そう言いかけながら、俺から顔を逸らす篠原を見てピンと来た。
「あー…部屋で、イイコトしてる時の事思い出しちゃうから?」
顔を逸らした篠原の顔を覗き込む様にしながらそう言うと、篠原の手が撫でる様に俺の顔を押し返した。
怒っている、と言うより呆れているという感じで。
「人が必死で慣れない恋愛の質問に答えてたの、聞いてないふりして心の中で笑ってたんだろ、だから名前なんか呼んでからかって…」
「別に、からかった訳じゃ無い」
「じゃあどんな訳だよ?」
質問責めにされてる篠原を助けようと思って…いや、違うな。
女子に期待を持たせる誤魔化し方をしたお仕置きだってさっきは思ったが、それも違う。
あれは…あの感情は…
「独占欲…」
あんな風に、名前を呼ぶ方法を取ってしまった自分の真意を理解した途端、急に恥ずかしくなり、今度は俺が篠原から視線を逸らした。
「え?」
「だからその…お前が彼女居ないって言うから、2年彼女が居ないはずの、お前のハッピーオーラとやらの原因は俺だって思わせたかったんだよ」
異性同士でさえも煙たがられる職場恋愛だ。
それが同性となれば、言いたくても絶対にバレてはいけない恋愛をしている事は重々承知している。
だからせめて同僚として特別な存在だと、知らしめたかったのかもしれない。
女子社員にも、篠原にも。
「それは…前に面倒臭くなって彼女いるって言ったら、写メ見たいとか彼女の事いろいろ聞かれて嘘つくのに疲れたから…だから今回はそうならない様にいないって言っただけで…」
篠原はその時の事を思い出したのか、俯きながらそう言ったが、そう言いながらも口元がだんだん緩んでいくのが分かって
「嘘つくの下手くそだもんなー、今も口元笑ってるし。俺に焼きもち焼かれて嬉しかったって丸わかりだぞ」
俺はすかさず、そうツッコんだ。
「べ…別に嘘ぐらいつけるし、嬉しくなんて…」
「そうか?女子社員にはハッピーオーラってやつが見えてたみたいだけど?」
「お前までそう言う事…大体何なんだよハッピーオーラって」
篠原は不愉快だと言わんばかりに眉間に皺を寄せて、口を尖らせながらそう言った。
「お前さ、最近女子社員に何て言われてるか知ってるか?」
「え?」
「‘最近篠原さんいいと思わない?,」
「は?」
「‘色気を感じるっていうか〜,」
「へ?」
「‘彼女でも出来たんですかね〜?,」
「……」
「だとさ。自覚無かっただろ?」
俺が、給湯室での女子社員のセリフを声色を真似ながら再現すると、篠原は口をぽかんと開けたままコクリと頷いた。
「あるわけ無いだろそんなの…何?俺そんな風に見られてたのか?」
「いろいろだだ漏れだったみたいだな。本気で狙われないように気をつけろよ」
恋愛対象が男な筈の篠原の色気に女が気づくという事は、ゲイの男は確実に気づく筈だ。
もしかしたら知らないだけで、ゲイの社員が他にもいるかも知れない。
いや、ノンケだった俺をここまで見事なまでのタチに育て上げた篠原だからな…
全ての男に気をつけてもらわないと…
「俺の事本気で狙う様なヤツお前ぐらいだろ。俺の色気が効くのは浅野限定でいいよ」
俺限定…
「抱きしめたい」
「は?こんな所で何言って…ちょっ」
戸惑う篠原の手を引いて、居酒屋と隣のビルの隙間の暗闇へと身を滑り込ませた。
「こんな所なら?」
俺がそう確認すると篠原はキョロキョロと辺りを見渡して
「一瞬だけだからな…っ」
繋いだ手を引き寄せて、篠原の体をギュっと抱きしめた。
きっと、愛しさが溢れるってクサイ台詞はこんな時に使うんだろうなと思う。
「はー…あったかい」
「寒かっただけかよ」
腕の中で篠原がボソリとそう言った。
「違う。俺だけ限定ってのが嬉しかったから。キスしていい?」
「外だからダメ。どさくさに紛れて調子に…っ」
俺の胸に埋めていた顔を両手で包んで真っ直ぐ見つめると、観念したのか篠原は伏し目がちに視線を落とした。
「…ん…」
寒さで紫がかった唇にそっと唇で触れると一瞬ヒヤリとして、深く唇を重ねると、じんわりと暖かくなって行く。
すぐさま唇を割って舌でめちゃくちゃに掻き回したい衝動を抑えて唇を離し目を開けると、名残惜しいと言わんばかりの顔で俺の唇を見つめる篠原の表情が目に飛び込んで来た。
「ホント、その色気満点な顔が俺だけの物だと思うと嬉しいよ」
俺が満面の笑みでそう言うと、そんな顔を指摘されたのが恥ずかしかったのか、篠原は俺の体を勢いよく引き剥がした。
「っ…寒いし、もういいかげんに店に戻るぞ!」
「ちゃんとハッピーオーラ消して戻れよ」
ビルの隙間から抜け出した篠原の背中にそう注意すると、くるりと振り向いて
「っ…言わせてもらうけど、お前だってハッピーオーラだだ漏れになってる時あるからな!」
お?それは新情報。
「えーいつ?」
「休み明けとか…‘シタ,翌日とか、露骨に機嫌いいし、無駄にエロいの見てるこっちが恥ずかしいから気をつけろ!ばーか」
篠原は吐き捨てるように俺にそう言うと、忘年会もそろそろ佳境に差し掛かっているであろう居酒屋の中へ戻って言った。
「はは…お互い様だったか」
いい恋愛をしていれば、ハッピーオーラとやらは自然と出るだろうし、魅力的に見えるのは当たり前だ。
恋人だけにその魅力が伝わればいいけれど、厄介な事にそうはいかない。
時にはその魅力に寄って来て愛を囁く他の人間が現れる事もあるだろう。
その時に、いかに自分の恋人の事を見ているのか、自分の恋人の魅力にちゃんと気づけているかが、重要なんだと思う。
俺と篠原はお互いのハッピーオーラでさらに恋人への好きを拗らせるという始末。
今回の件でまた俺達が救いようの無いバカップルだという事が判明したし、明日は休みという事でとりあえず…
帰ってからめちゃくちゃセックスした。
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