アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
始まり(4)浅野Side
-
そして、交わる事の無い平行線を歩き続けていた様な、二人の関係が動き出したあの日…
「ふぁああ…」
「なんだ篠原、寝不足か?」
篠原の盛大なあくびに、思わずそう問いかけた。
実を言うと、朝から気になっていた。
篠原の目が赤いのだ。泣くような事があったのか?寝不足になるほど、悩みがあるのか?
この感じには覚えがあった。
一年前、あの一件を目撃した次の日と同じだった。
まさか、あの時と同じ様に、恋人と別れたとか…
「ちょっと…赤ん坊の夜泣きが煩くて」
俺の予想外な言葉が返って来て、パソコンを弄る手を止めて、目を見開いた。
ちょっと待て。赤ん坊って…
ゲイだとばかり思ってた篠原が実はバイ⁉︎
「お前いつの間に…」
「アホか。俺のじゃなくて、隣ん家にお姉さんが赤ん坊連れて泊まりに来てんだよ…」
あぁ…そう言う事か。ビックリした。
でも、本当にそうなのだろうか?あの時はDV
Dを観て泣いたと嘘をついたぐらいだ。
今回も嘘をついて、強がってるだけかもしれない。
「まぁ、一週間ぐらいしたら帰るらしいんだけどさ…完全に甘く見てたんだよなー…夜泣きってやつを」
「そんなに参ってるのか?」
「あぁ、夜中一時間おきにギャーギャー泣かれて満足に眠れないまま朝になった」
ふぅん…本当っぽいな。確かに目の下に隈がクッキリとついている。
「すげープーさんだもんな」
「ん?プーさん?」
あれ?笑わせて元気づけ様と思ったのに難易度高すぎたか。
「目の下に隈(くま)のプーさん」
「…つまんね」
人が折角分かりやすい様に説明してやったのに、呆れた顔で速攻ダメ出しされた。
このヤロ。人の気も知らないで。
「つまんなくないだろ、ほら祐美ちゃんも笑ってるし」
ほら見ろと言わんばかりに丁度通りがかった後輩の女子社員にそう言うと、クスクスと笑っていた。
上目遣いのキラキラとした視線を注がれる。自分を慕ってくれる後輩女子は可愛いとは思う。
だけど、こういう時に俺を見つめる篠原の、俺に向けられる視線の方が、よっぽど気になってしまう自分がいて…
ほら。また一瞬、切なそうな顔をした後、俯いた。
俺が女の子と話したりする時に限って、篠原がこういう顔をするんだと気付いてからは、篠原の気持ちを探る為に、ワザと目の前で女子社員と雑談したりした事もあった。
なぁ、篠原。お前は気付いていないだろうな…
お前がそんな顔をする度に、俺の中の悩みの種は、約一年という歳月を掛けて、膨らみ、もう俺一人の力では、どうにも解決出来なくなってしまった。
俺は知りたいんだ。
俺に向けられたその視線の意味を。
あの日から俺の胸の中に宿ったお前に対するこの感情の名前を…
それを知る為に、一週間共に暮らして、自分の気持ちを確かめたい。
確かめるチャンスはきっと今しかない…
「俺んチ来れば?」
意を決して俺はそう口にした。
「え?」
「だから、そんなに参ってるんだったら俺の家に泊まりに来たらどうだ?」
篠原がこの提案を受け入れる保証はどこにも無い。もしかしたら、また断られるかも知れない。
篠原の顔は明らかに動揺していた。
「いや…いい」
やっぱり。
でも、今回ばかりは俺だって早々に引くつもりは無い。それに、本当に眠れないと言うのなら、心配だ。
「いいって…じゃあどうするつもりだ?一週間そんな状態で働くのか?」
「うーん…ホテルにでも泊まるか、他に泊めてくれそうなヤツ探すよ」
泊めてくれるヤツがいるのか。
俺じゃ嫌なのか?そう思うだけで、胸がモヤモヤとした。
「なんだそれ…他の奴の家なら泊まるのに、俺の家に泊まるのは嫌なのか?」
篠原からフイッと視線を逸らし、つい不機嫌な態度を取ってしまった。
「べ…別に嫌な訳じゃない。ほら、おモテになる浅野様のお部屋に一週間も俺がいたんじゃ、その間女の子が遊びに来れないだろ?」
篠原は慌てた様に、そう弁解した。弁解するって事は嫌では無いんだろうけど、また勝手に俺はモテ男キャラに仕立て上げられてしまった。
「お前、俺の事どんだけモテると思ってるんだ」
「よりどりみどりのハーレム状態」
そこまでいうのなら、キャラは守らないとな。
「まぁ、否定はしない」
「しないのかよ」
なんだよその複雑そうな顔。俺に否定して欲しかったのか?
不思議なもんだな、女の子のハーレムなんかより、今の俺は篠原をどうしたら部屋に呼べるかばかり考えている。
さてどうするか…
「でも、俺の事をそんなにモテると思ってるんなら一週間ぐらいお前が居候したって、女の子は俺から逃げないって事だろ?だったら俺の家に泊まるのを拒否する言い訳にはならないぞ」
これでどうだ。なかなか良い反論だろ?
「でもタダで泊めて貰う訳には…」
意外と律儀だな。
別に見返りは求めていなかったが、篠原がその方が部屋に来やすいと言うのなら…
「タダで泊まるのが気が引けるんなら、炊事洗濯やってくれよ。それならいいだろ?」
俺は、そう条件を付けた。
まだ考え込んでいる篠原に、ダメ押しと言わんばかりに、俺は更に言葉を続けた。
「俺は一週間炊事洗濯しなくて済むし、お前は防音完備の部屋のふかふかのベッドで安眠出来る。この条件でもまだ断るとしたら理由は何だ?」
「うぅ…」
やれる事はやったはずだ。これでもまだ断るのなら…
「やっぱりお前、俺の事キラ…」
イなんじゃないか?そう言い掛けた時…
「分かったよ…一週間お世話になります」
篠原は根負けしたのか、そう言って頭を下げた。
「了解」
俺は勝った。
こうして、俺と篠原の一週間が始まったのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 37