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噂の彼(3)浅野Side
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忘年会も中盤に差し掛かり…
「篠原さん、どうぞ」
篠原のグラスが空になったのを見て、女子社員がその斜め前からお酌を持ちかけた。
あの時、給湯室で田中さんと最近の篠原について噂していた古川さんだ。
お、もしかして例の質問来るか…
「あ、じゃあ、もうちょっと」
篠原が差し出したグラスにビールが注がれて行く。
「ありがとう」
そう言ってグラスに口をつけたタイミングで…
「そう言えば篠原さんって彼女いるんですか?」
やっぱり来た。
-ブッ!-
篠原は思いがけない質問をされてビールを噴き出した。
「ゲホゲホ…ど、どうしていきなり?」
篠原はおしぼりで口元を押さえながら、突然の話題に疑問を口にした。
「篠原さんの、そう言う話しあんまり聞いた事無かったんで、どうなのかなーって」
俺はあえて篠原と古川さんの会話には加わらず隣の先輩や上司との会話を続けた。
顔を逸らし、篠原が何て答えるのか耳だけはしっかり傾けて。
篠原の視線を一瞬感じた後。
「彼女 ‘は,いないよ」
篠原はそう答えた。
まぁ、確かに彼女‘は,いないな。
「そうなんですかーてっきり彼女出来たのかと思ってました」
「ん?どうして?」
「いや、何か最近篠原さんハッピーオーラをまとってる気がしてたんで」
ハッピーオーラって…一体何色だよ。
思わずツッコミを入れに会話に参加しそうになるのをぐっと押さえて、聞き耳を立てる事に集中した。
「いやー、そんなオーラまとってるつもりは無いんだけどな…仕事が充実してるからじゃないかなーははは」
「でも、どのぐらい彼女いないんですか?」
ぐいぐい来るなー
「えっと…2年…とかかな、多分」
うまくごまかしながら嘘をつくのも大変だろうな。
多分篠原はこの手の質問をずっとごまかしながら生きて来たはずだ。
「2年かー、私も前に2年ぐらい空いた事あるんですけど、また恋人欲しくなる時期ですよね」
「あ、うん…まぁそうだねー」
あー…この流れは非常にやばいのでは無いか、篠原君。
「そう言えば今度合コンがあるんですけど、友達に保育士で可愛い子がいて…」
ほらみろ。
そろそろ助け船を出すか。
でも、俺の前で女子に期待を持たせる様なごまかし方をしたお仕置きをしないとな…
「ごめん淳也、醤油取って」
「うん。はい、祐介」
篠原は突然の俺からの呼びかけに、釣られたんだろう、何の躊躇いもなく、自然に名前で返した。
まるでお互いの家にいる時みたいに。
言っておくが会社のみんなの前でお互いを名前で呼んだのは初めてだ。
「わ…違和感あると思ったら、名前で呼び合ってるの初めて聞きました。何か新鮮ですねー」
「-っ!」
篠原は古川さんに言われて初めて、俺が篠原の事を名前で呼んだ事、自分が俺の名前を呼んでしまった事に気がついた。
アルコールで少しピンク色をしていた篠原の頬がみるみるうちに赤くなって行く。
可愛いな。ゆでダコみたいだ。
「あ…俺今名前で呼んでた?たまにプライベートで遊んだりする時には名前で呼んだりするから、つい出たのかも」
今にも顔から火が噴き出しそうになっている篠原に代わり、俺はそう答えた。
まぁ、正しくは主に名前で呼ぶのはセックスの最中なんだけどな。
「へぇープライベートも遊んだりするんですねー」
平然と古川さんと会話する俺を見て、篠原はキッ!と俺を睨みつけたかと思うと…
-ドカッー
テーブルの下、掘りごたつの中の俺の足を思い切り蹴った。
「いてッ!」
まさかこんな形で反撃されるとは思わなかった。
「浅野さんどうかしました?」
「いや、何でもないよ」
俺は蹴られた所をテーブルの下でさすりながら、古川さんからの問いかけに、無理やり笑顔を作って返した。
篠原はついに自棄になったのか、グラスに残っていたビールをグビグビと一気にあおり始めて…
「お…おい、篠原?」
しまった。やり過ぎたかな…
「-ぷはッ!…俺ちょっと、暑くなって来たから外の空気吸ってくるわ」
篠原はそう言って席を立ち、通路側に回って来ると、背後から俺の腕を引っ張った。
「お前も、タチが悪い酔っ払いになって来たみたいだから、少し頭冷やした方がいいんじゃないか」
腕を掴まれ、見上げた篠原の顔は、口元は笑ってるけど、目が笑って無い。
明らかに顔が‘ちょっと顔貸せや,と言っている。
怖え…
「…じゃあ、俺も一緒に行こうかな。ごめんね話の途中で」
「いいえ。行ってらっしゃーい」
古川さんは、呆然としながらも、俺達にヒラヒラと手を振った。
さてと、説教されに行きますか…
俺の前を歩く篠原が、今はどんな顔をしているのかは分からなかったが、相変わらず耳は真っ赤だった。
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