アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
03
-
◇◇
逢坂の噂は、瞬く間に全校中に広がった。
あのルックスと雰囲気を兼ね備えていれば、当然のことだろう。
ホームルームの終わりを知らせるチャイムが教室に鳴り響くと同時に、我先にと、隣の席に女子達が殺到する。
見れば、教室の外にまで、凄い数の野次馬がいる始末。女子の情報網は凄いなと感心しつつ、次の移動教室の為、予め用意しておいた教科書類を持ち、足早にその場を立ち去ろうとする。
「…待って、林野君」
けれどそれは、群衆の中央から伸びてきた一本の腕によって、阻止されてしまった。
突然手首を掴まれ、固まる俺の前で、逢坂は群れの中からひょこりと顔を覗かせた。
「捕まえた」
目が合うと、逢坂は悪戯っぽく微笑んだ。
「…俺、少し具合悪くなっちゃって。保健室まで、案内して欲しいんだ」
彼はそう言い、群衆を掻き分けて俺の側まで来ると、半ば強引に俺を教室の外へと引っ張っていく。
ひょろく見えるけれど、手首を引く力は案外強く、逆らうことが出来ない。
「ち、ちょっと…なんで、俺?」
その背中に声をかけてみれば、彼は歩みを止めずに、ちらりとこちらを見た。
「俺じゃなくても、案内なら、そこら辺の女子に頼めば…」
「俺、君以外に興味ないんだ」
「は、はぁ…?」
何だか今、さらりと爆弾を落としていかれたような気がするのは、気の所為だろうか。
戸惑いつつも、彼の纏う雰囲気に気圧されて、引かれるがままに黙ってついていく。
ようやく逢坂の手が解かれたのは、階段を二つ上がった四階の、もう使われていない空き教室の前まで来てからだった。
同じ学校内だというのに、そこは驚くほどに静かで、人気が全くない。漂う空気は、今が夏だとは到底思えないほど、冷え切っている。
首筋を、つう、っと冷たい汗が伝った。
ーー保健室に行くと言っていたはずなのに、いきなり俺をこんな所へ連れてくるなんて。彼は一体何を考えているのだろう。
急に、目の前の男が、酷く恐ろしい化け物のように思えてきた。
思わず一歩後退しようとして、くるりと逢坂が振り返った。
その顔には先程同様、悪戯っ子のような無邪気な微笑みが浮かんでいる。
「…なに、する気なの。お前…」
静まり返った廊下に、自分の声が響く。
その声は、微かに震えていた。
逢坂は俺が恐れているのを感じとったのか、くつくつと愉しそうに笑った。
その唇が、薄く開く。
「ーー君、死ぬよ。もうすぐ」
「…は…?」
耳に飛び込んできた言葉は、俄かには受け入れ難い言葉だった。
呆気に取られている俺の前で、逢坂は笑みを崩さぬまま、心当たりあるでしょ、と続けた。
「そんなの、…ない」
「いや、君にはあるはずだよ。…ああ」
向けられた瞳が、すうっと細められる。
「…“視える”。そう言ったら、分かるかな」
思わず、息を呑んだ。
どくんと大きく心臓が跳ねて、胸がざわめき立つ。
逢坂は俺が動揺しているのを、可笑しくて堪らない、と言った様子で見つめながら、くくくと押し殺すような笑い声を漏らした。
「ね、心当たり、あるだろう?」
くらりと、眩暈がした。
信じられない、いや、信じたくない。
「今俺が視えているだけでも、15、6人いるよ。君の、背後にね」
まさか彼にはーー本当に視えているというのだろうか。
ふらふらと、側の壁に寄りかかる。
身体に、力が入らなかった。そのままずるずると、膝から床に崩れ落ちてしまう。
「ふふ、ショックだった?」
彼は俺の側まで来ると、しゃがみこみ、じっと顔を覗き込んでくる。
その目の奥が愉しそうに光っているのを見ると、無性に腹が立った。
纏わりつく視線を振り払って立ち上がり、吐き捨てるように呟く。
「俺は、そういうの信じてねえから。…アンタみたいな胡散臭いオカルト野郎、大っ嫌いなんだよ」
感情のままにじろりと睨みつけた俺に、ふ、と彼は目を細めた。
「…信じようと信じまいと君の勝手だけど……でも、気を付けた方がいいよ。君、狙われてるから」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 128