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◇◇
「…た、おい、涼太」
空白の頭に、誰かの声が滑り込んでくる。
はと顔を上げてみれば、怪訝そうにこちらを覗き込む、高坂の姿があった。
「何だよ、ぼーっとしちゃって。恋煩い?」
「バカ、そんなんじゃないから」
軽く笑いながら揶揄ってくる高坂を受け流し、ちらりと左手に着けた腕時計を確認する。
時刻は、十二時五十三分。丁度四時間目が終わり、昼休みに突入する時間だった。
もうそんな時間か、なんてまだぼおっとする頭で考えていれば、高坂は前の席の椅子をくるりと180度回転させ、どかっとそこに腰掛けた。
入学して、早二ヶ月。
高坂とは高校になってから仲良くなったのだが、妙に気が合うので、休み時間や移動教室など、気が付けば高坂と一緒にいることが多い。
おまけにどちらも帰宅部だということもあって、最近は一緒に帰るようにもなった。
どうしてここまで気が合うのかといえばきっと、俺達のまるで対極にある性格のせいだろう。
例えるなら、高坂は太陽だ。
高坂は明るく朗らかで、誰とでもすぐに打ち解けられるような性格をしている。
対して俺は、月だ。
静かで、いつもクラスの隅にいるような、内向的な性格をしている。
陽と陰。そんな真反対の俺たちだからこそ、引かれ合うのだろう。
「あ、それ美味しそう。一個ちょーだい」
「あっ」
高坂の箸が、俺の弁当箱の中から、うずら卵を一つ摘まみ上げる。
「ん?なんだよ」
「…別に」
もう高校生なのだから、大好物を一つ取られたくらいで怒るなんて、子供らしい。
そうは分かっていても、少し苛々してしまう。
「お、美味い」
俺の心など露知らず、高坂は俺から盗ったうずら卵を口に放り込み、軽く笑顔なんて浮かべながら、咀嚼している。
その顔には、罪悪感など全く見てとれない。
もぐもぐと口を動かしながら、高坂が思い出したようにあっと口を開く。
「そうだ。今日は一緒に帰れないわ」
「…何かあんの?」
「いや、別に大したことじゃないんだけどさ。家の手伝いしなきゃいけなくて」
「へえ、偉いな。見かけによらず」
「おおっ、毒のある言葉」
先程の怒りも込めて皮肉たっぷりに返してやれば、高坂は大袈裟に肩を竦めて見せる。
「んだよ、怒ってんの?」
「…別に」
「もしかして、…今日一緒に帰れないからとか?」
「……は?」
何とも間抜けな声が零れる。
まさか今のくだりから、そういう方向に持ってこられるとは思わなかったのだ。
高坂は俺の反応を肯定と受け取ったらしく、そうかそうか、と一人で頷いている。心持ち、その表情は嬉しそうに見える。
「ごめんな。お前がそんなに俺を愛してくれてたなんて、知らなかったよ」
「いや、ちが…」
「大丈夫。俺も、涼太のこと好きだから。安心して!」
何を、安心すればいいのだろう。
もう否定するのも面倒なので、そのままにしておこう。
高坂が何やら一人で喋っている隙に、高坂の弁当箱へ箸を伸ばす。
確か、高坂は卵焼きが好きだと言っていたはずだ。
ふっくらと膨れた黄色の卵焼きを、箸先でしっかり、落とさないように摘んで、自分の口元へと運ぶ。
「……でさ、……ん?あれ、お前それ」
高坂も、気付いたようだ。
しかしもう遅い。卵焼きは、俺の口の中へとゆっくり落ちていった。
「あーっ!俺の卵焼き!楽しみにしてたのに!」
「……ばーか」
これで、おあいこだ。
まるで漫画のように大袈裟に落胆する高坂を尻目に、舌の上に乗った卵焼きを味わう。
高坂から奪い取った卵焼きはうちの母さんが作るのよりもずっと美味しくて、高坂があんなに残念がった理由が少し分かる気がした。
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