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◇◇
通りに似つかわしくない西洋の洋館然とした建物に気圧されつつ、立派な門を抜けて、扉の前に立つ。
逢坂が鍵穴に鍵を差し込み、捻ると、ガチャリと音がした。
「どうぞ」
逢坂が押すのと同時に、ギギギ、と音を立てて古めかしい扉がゆっくりと開いていく。
「お、お邪魔、します…」
躊躇いつつ、逢坂に続いて家の中へ足を踏み入れる。
中は、古い洋館そのものだった。
二階建てのそこは幾つもの部屋から成っており、天井からはシャンデリアが吊り下がり、壁には額縁に入った肖像画が何枚も飾られている。
霊能力者ということで、もしかしたらお札が貼ってあったり、部屋の隅に盛り塩がしてあったりするのかもしれない。なんて、微かに期待をしていたものの、そういった類のものは残念ながら見受けられなかった。
ーーあの後、もっと詳しく話が聞きたいという俺に、家に来ないかと逢坂が提案してきたのだ。
俺はそれに賛同し、そうして今現在、このような状況に至る。
「…こっち」
逢坂の後ろに続いて、指定された部屋に入っていく。
どうやらそこは、リビングらしかった。
一面に金の模様の入った赤い絨毯が敷き詰められ、彫刻のような壮麗な椅子やテーブルが立ち並んでいる。
余りの絢爛な内装に、もしかしたら自分は異世界に迷い込んでしまったのだろうかと錯覚してしまう。
「そこら辺、座ってて。今飲み物持ってくるね」
飛んできた逢坂の声に、弾かれたようにはっと我に帰る。
ここは現実だと、そう通告されたみたいだった。
言われた通り、大人しく近くにあった椅子に腰掛ける。
座る部分は柔らかくクッション性があり、一度腰掛けると身体が沈み込んでいく。
近くで見ると、椅子自体が本当に一つの作品のようだった。肘掛けの部分、脚。細部に至るまで丁寧に細工が施されている。
この椅子だけではない。部屋全体が、まるで王室のように、隅々まで美しく飾りつけられ、煌めいている。
「…おまたせ。なに考えてたの」
コトン、と目の前のテーブルにガラスのコップが置かれる。
はっと顔を上げると、逢坂の笑顔が目に入ってきた。
その顔は恐ろしいほどに整っており、向けられた瞳の奥には強い光が宿っている。
彼は一体、何者なのだろう。
少なくとも、ただの高校生ではないことは確かだ。
ごくん、と生唾を呑み込む。
気を許したら、喉元に喰いつかれる。そんな確信めいた予感があった。
「…ん、飲まないの?」
「……それより、早く話が聞きたい」
手元のコップに触れようともしない俺を見て、逢坂はくすりと笑った。
「まあ、焦らないで。それじゃあ、何から話そうかな…」
逢坂は少し考えるそぶりを見せると、ああ、と1人頷いた。
「まずは、君のその特異な体質からかな」
「…体質?」
「そ、体質」
逢坂は楽しそうに笑うと、多分だけどね、と前置きしてから話し始めた。
「君が狙われているのは、君のもつその特殊な匂いのせいだと、考えていい」
「っにお、い…?」
思わず、聞き返してしまう。
彼が言うにおいとは、あの納豆とか、腐った卵とかから放出される、あの“匂い”のことだろうか。
逢坂がこくりと頷く。
「そう。ああでも、安心していい。君その匂いは、俺のような霊力がある者にしか感じられないんだ。つまり、普通の人間にはなんの影響も与えない」
なんだか、ゲームの世界に迷い込んでしまったような気分になる。
普通の人間には感じることの出来なくて、霊力のあるものだけが感じることの出来る匂い。
そんなものが、存在するのだろうか。
「…そしてその匂いには、霊を惹きつけ、興奮状態にさせる力がある」
「……霊を…」
霊を惹きつけ、興奮させる匂い。
信じられないと思う自分がいる一方、妙に納得している自分がいる。
逢坂の言ったことが正しければ、今までのこともさっきの事も、全て説明がつくからだ。
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