アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10
-
逢坂の言ったことを信じるならば、俺が持っている匂いに誘われて、霊は集まってきているということ。
ということは、だ。裏を返せば、こうも言える。
「だとすれば、…この匂いがなくなれば、霊は寄って来なくなる。そういうことだよな」
「…うん、まあ理屈ではね」
「何だよ、茶を濁すような言い方だな」
「それならば、この匂いを消す方法を教えてくれ。君がそう言いたいのは、分かる」
「…不可能だって、そう言いたいのかよ」
わざと婉曲的な表現を用いる逢坂に、何となく彼の言わんとすることが理解出来た。
「そう。察しがいいね」
逢坂は満足げに頷いた。
「…いい?君のそれは、一種のフェロモンみたいなものなんだよ。対象が人間じゃなくて、霊であるってだけで」
「フェロモン…?」
「そう。フェロモンって、出そうって思って出るものじゃなくて、無意識の内に出ているものだろう。君のも、それと同じ。君の意識下で、コントロール出来るものじゃない」
「…んだよ、それ…」
上手く、言葉が出てこない。
心が、ドス黒い感情に支配されていく。
それじゃあ、俺は。
一生幽霊に付き纏われながら、生きて行かなくちゃならないってことなのか。
常に命の危険を感じながら、毎日彼らの影に怯えて過ごさなきゃいけないってことなのか。
今まで抑え込んでいた感情が、怒りが、どっと喉までせり上がってくる。
「…ふざけんなよ。どうして、俺が…!」
「…林野君」
溢れ出す想いを堪えることは、出来なかった。
津波のように押し寄せる激情のままに、唇が動く。
「どうして、っ…何で、俺なんだよ!俺が、何したって言うんだよ、クソッ…!」
「…林野君!」
逢坂の手が、俺の肩を揺さぶった。
近くで、美しい灰色の瞳と視線が交錯する。
「君は、人の話を最後まで聞くべきだ。話はまだ、終わっていないのだから」
諭すような口調に、次第に昂っていた心が落ち着いていくのを感じる。
逢坂は俺が平常に戻ったのを確認すると、いい子だね、とにこりと微笑んだ。
何だか子供扱いされているようで少しもやもやするが、現に先程子供のように喚き散らしてしまったのだから、文句は言えない。
「…確かに君は、何もしていない。けれど、そういう体質で生まれてきてしまったんだ。俺だって、同じだよ。残酷だが、受け入れるしかないんだ」
「っ、でも…」
「けれど、全てのことには意味がある。君がその能力を持って生まれてきたということは、つまり、その能力を必要としている人がいるということなんだ。俺のようにね」
「…は?」
話が、全く見えてこない。
逢坂はくすりと笑うと、すっと目を細めた。
「ーー取引、しよう」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 128